研究紀要第73号「事例を通した教育相談の進め方に関する研究 第2年次」 -104/126page
6. 指導仮説
次のことを目指して努力すれば,A子の「話す」ことへの心理的な緊張が開放されるとともに,学級全体の人間関係が調整され,ひいてはA子の問題の改善につながると思われる。
(1) A子とのラポールの形成及び指導援助(2) 学級全体への指導援助
- 話すことについての緊張をなくすため,話すことを強要しない。
- 常日ごろ,さりげなくA子との接触を図る。
- A子の良いところをほめる。
- 受容的に接する。
(3) 家族への指導援助(担任の両親への働きかけ)
- 思いやりの気持ちを育てる。
- A子の心情を理解させる。
- A子の特技(ピアノ)を生かして,級友に認められるようにする。
- グループ・エンカウンターを通して,学級のみんながお互い同士理解し合い,受け入れ合うようにさせる。
- 日常生活の指導や捜業に教育相談的な手法を生かす。
- A子に対して「話す」ことについての緊張を解くため,話すことを強要しない。
- A子の行動に対して結果だけを評価するのではなく,努力の過程を認めるようにしながら自信を持たせる。
7. 指導援助の過程
(1) A子とのラポールの形成及び指導援助
以下のようなさりげないかかわりを根気よく試みた結果,担任と二人だけの時は小さな声ではあったが,やりとりができるようになってきた。
・ 電話によるやりとり
かん黙の子供の場合,顔を見て話をすると極度に緊張する。そのため,可能であった電話によるやりとりからラポールの形成を試みた。
T 「A子さんかい?先生だけど。今日は,体の具合が悪そうだったけど調子はどう?」
A 「少し熱があったんです」
T 「そう,それじゃあ大変だったね。明日,水泳はだいじょうぶかな?」
A 「はい 」
T 「おいしいものでも食べて早く治しなよ」
A 「はい」
T 「じゃあ,待ってるよ。さようなら」
A 「さようなら」
このようにして,さりげない内容で短時間電話でやりとりをしていった結果,電話では段々といろいろな話題で気軽に話せるようになっていった。
・ 放課後,一緒に仕事をしながら
一緒に体を動かしながら,顔を見ないようにして話しかけることを試みた。
T 「A子さん,ボールの空気入れ手伝ってくれないかな?」
A 「……」(黙ってうなずく。)
T 「じゃあ,一緒に体育館に行こう 」
A 「……」(やはり黙って2,3歩後をついてくる)
T 「ようし,先生はこっちのかごのボールに空気を入れるから,A子さんはそっちのをやってくれないかな」
A 「……」(すぐに取りかかる。一緒に仕事をやりながら時々話しかけたが,相変わらず黙ったままでうなずく程度だった。しかし,表情は明るかった。)
T 「いやあー,ずいぶん空気が抜けていたね。でも,A子さんに手伝ってもらったので助