研究紀要第73号「事例を通した教育相談の進め方に関する研究 第2年次」 -105/126page

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かったよ。ありがとう。先生はもう少し体育館の整理をしていくから,先に帰っていいよ。気をつけて帰りなね。さようなら」
A 「……」(ぴょこんとおじぎをして,元気よく走って行った。体育館の入り口で,こちらを振り向きながらもう一度おじぎをした。少し口を動かしたように見えたが,はっきりしなかった。)
 このようにしてA子との共同作業を多くしていった結果,担任との会話ができるようになってきた。以下は,初めて会話ができた時のやりとりである。
T 「音楽室で明日の音楽の時間に弾く曲を練習したいんだけど,ちょっと教えてくれないかな?」
A 「……」(黙ってうなずく。)
T (曲を弾きながら)「ほら,ここのところがわかんないんだよね。A子さん,ちょっと弾いてみてくれる?」
A (椅子に座ちて弾き始める。)
T 「じょうずだね!なるほどそんなふうに弾くのか。どれどれもう一度弾いてみるか」
T 「あれっ,また間違った。おかしいな。どうも左手の指使いがおかしいな。こうか?いや違うな,こうか?」
A 「先生……」(ほとんど聞き取れないような小さな声で)
T 「ん?」(やった!と思ったが,後ろを振り向かないで)
A 「小指が……」(と言いながらピアノの鍵盤を後ろから指す。)
T 「ああ,こうかあ!できた。できた。A子さん,ありがとう。やっとわかったよ。A子さんに頼んでよかったなあ」

・ 休み時間
 一人でいるA子にさりげなく近寄って,一緒に同じ方向を見ながら話しかける。
T 「体の具合でも悪いの?」
A 「いいえ」
T 「じゃ,先生と一緒に外に出て遊ぼうか。」
A 「はい,でも……」
T 「みんなが待ってるよ。さあ,行こう」
A (でもと言いながらも一緒について釆た)
T 「みんな,A子さんと先生も一緒にやるぞー」
C (ドッジボールをやっていた学級の子供たちは,快く仲間に受け入れてくれた。)
A (初めは表情も硬かったが,動いている間に和らいできた。)

・ 授業中
 机間指導の時も席のそばで小声で話しかけた。この時はA子の返事を期待しないで,良いところをほめ,自信をつけさせていった。

・ 通知票
 A子が気にしている発表力がないとか,おとなしいとかには触れないで,良い点や伸びた点を認め励ました。

 A子とのラポールの形成を図りながらかん黙の改善を目指してきたが,A子が「話したこと」については,「よくしゃべったね」とか「よかった」とかは言わないようにした。これは,A子に心理的な負担をかけないようにするためである。

(2) 学級全体への指導
・ 学級の子供たちに思いやりの気持ちを持たせるために,折りにふれて思いやりの大切さについて話すとともに,子供の思いやりのある行動を積極的に取り上げてほめたりした。また,担任自身も子供たちに「かぜひいたの? 無理しないで,調子が悪い時は早めに言うんだよ 」などと,温かい言葉をかけるよう


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