研究紀要第73号「事例を通した教育相談の進め方に関する研究 第2年次」 -106/126page

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にした。
・ A子が欠席をして,いない時などに「A子さんは本当は話をしたいと思っているんだよ」と言って聞かせ,A子の心情を理解させていった。
・ 学級のみんながお互い同士理解し合い,受け入れ合うようにさせるため,グループ・エンカウンターを活用した。

1 席がえ
T 「今日で隣の人とお別れなので,今までの感謝の気持ちをこめて,握手をしながら黙って目と目であいさつをしてみよう 」
 この時,A子は笑顔を浮かべながら黙って相手を見ていた。一分位だったが,こんなに長い時間A子の笑顔が見られたのは初めてだった。
T (席がえ後)「それでは,今度はお互いに相手の知りたいことをインタビューしよう。ただし,答えたくない時は『今は答えたくありません。』と言ったり,黙って下を向いたりしよう。では,ジャンケンをして勝った方からインタビューしてごらん」
 A子はジャンケンで負けたので聞かれる側になっていたが,相手の聞くことに対して小声ながら一生懸命答えていた。
 A子と席を組ませたのは,ソシオメトリック・テストでA子が選択していたB子であった。B子の方はA子を選択も排斥もしていなかったので,担任はB子に「A子さんが,B子さんって勉強ができるしやさしいねって言ってたよ」と,A子から聞いていたことを伝えるなど,意図的にA子とB子との関係がうまくいくように働きかけをしておいた。このことは,B子は二つある女子グループの一方のリーダーであったので,孤立しがちなA子をなんとかB子のグループに入れたいと考えて配慮したことであった。

・ 朝の会で
T 「今日は,学級のみなさんと握手しながら朝のあいさつをしよう 」
 他の子供たちほ.照れながらも男女の区別なく行動していたが,A子は自分から歩こうとはせず,友達が来るのを待っていた。しかし表情は明るかった。
・ 子供たちとのかかわり合いが一番多い授業でこそ,人間関係を大事にしなければならないと考えて,授業に教育相談的な手法を生かしていった。特に,子供たちの発言の裏にある気持ち,例えば「自信がないなあ」とか「間違ったらどうしよう 」とかの気持ちを考えて受容的に接した。また,一人一人が学級の主役になれるように,例えば,漢字博士とか分数のチャンピオンとか,それぞれ個性を生かしていった。A子の場合は,特技のピアノを生かして,学級のみんなに認めさせたいと考えて意図的に音楽の時間,ピアノの伴奏を頼んだりした。以下は,その時の様子である。
T 「A子さん,先生,ちょっと用事ができたので,代わりにピアノの伴奏頼むよ 」
 この後音楽室に帰ってみると,曲の出だしのところで「はい」と声をかけながらピアノを弾いていた。担任も驚いたが,子供たちもびっくりした様子であった。子供たちはA子が声を出したことには触れないで,「先生がピアノを弾くよりA子さんの方がいい」と盛んに口にした。A子の存在が認められ,そして,みんなの前で初めて声をだした日だった。A子は顔を赤くしながらも,満足そうな表情であった。

(3) 家族への指導援助
・ 「話す」ことへの心理的な圧力をかけないようにするため,両親には次のような言葉をA子に言わないようにお頼いした。


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