研究紀要第73号「事例を通した教育相談の進め方に関する研究 第2年次」 -112/126page
当初は,部活動でも近づいてこなかったが,いつもほめたり認めたりしているうちに素直に喜ぶようになり,その結果生活全般にわたって,自信がついてきたのか,積極的に振る舞うようになってきた。
(2) 専門機関との連携について
1 県教育センターとは,担任の空き時間の関係で月曜日の10時から12時までの時間,教育センターの担当者と定期的に連絡し合い,本人や父母に対する指導援助や資料収集,資料の解釈や分析について助言を受けながら指導に当たった。
その結果,心理検査から本人が孤立しているとともに,家庭内で父母や祖父母の叱責などにより,緊張して,情緒不安になっていることをつかむことができた。
2 県教育センターと学校(担任)とで,役割を分担した。
・ 学校(担任) : 本人及び父母への指導援助
・ 県教育センター : 心理検査の案内,分析
病院への受診についての判断(最終的にはその必要はなかった。)(3) 家庭への指導援助について
当初,父母は,チックを問題行動として受け止めておらず,学校側から問題を提起しても取り組もうとしなかった。家族画を基に父母と本人へのかかわり方についてカウンセリングをして,次のように働きかけてもらうようにした。
・ チックについては,家庭で注意しないようにする。
・ 家庭内での孤立感の解消のため,やさしい接し方をする。
2 親が一番心配する家庭での落ち着きのなさも,チックと同じ不安が根源であると思われることから,家庭での本人との人間関係の改善について配慮してもらうようにした。8. 考察
(1) チックの改善について
本人への受容的,支持的な接し方や本人に対する積極的で肯定的な受けとめ方などによって本人と担任とのラポールを深めることができた。その結果,担任に次第に心を開くようになり,生育歴における家族の人間関係がチックや家庭における落ち着きの無さの基になっていることまでわかった。また,チックについて,親が問題行動として意識していないこともあって,当初その背景を探る資料の収集が思うようにできなかったが,親とのカウンセリングにより,次第に協力が得られ家族の本人へのかかわり方が改善されてきた。
以上の結果から,学校や家庭で緊張することが徐々に少なくなっていった。そのため,次第にチックが改善されてきたものと考えられる。
この事例ではチックの背景にある家族への不信,自信の欠如が本人を家族の中で狐立化させており,緊張や情緒不安の基になっていた。しかし,担任の取り組みへの熱意と意欲的な対応によってラポールが形成され,チックの背景にある不信感を取り除き,自信の喪失を回復させ,緊張を少なくしたことから次第にチックそのものが改善されたものと思われる。(2) 問題行動(チック)の改善と教師の役割 教師の問題行動の改善に向けてのかかわりの主なものとして次のようなものが見られた。
- 問題行動の早期発見のために研修を重ね問題行動の前兆を知り,一人一人の変化を読み取った。
- 根気強く子供に受容的,支持的に接し,ラポールを効果的に深めることができた。
- 問題行動を持っ子供だけでなく,学級全体の子供に対して肯定的に受け止め,働きかけるようにした。
- 専門機関の助言を得ながら,子供や親への対応の仕方を身につけた。
- 父母との連携を密にして,家庭における親としてのかかわり方の変化を促した。