研究紀要第73号「事例を通した教育相談の進め方に関する研究 第2年次」 -117/126page
6. 指導仮説
B子の問題の解決には,家庭環境を改善しで情緒を安定させるとともに,カウンセリングを通してB子の否定的な自己イメージを変え,対人関係に自信を持たせることが必要である。そのうえで,徐々に集団への適応を図っていくことが望まれる。
以下は,全職員が役割を分担し,協力しあって実施することになった指導援助の計画である。
〔本人に対して〕
(1) B子に対してさりげない言葉かけをしながらラポールを深めるとともに,B子の孤立感を和らげるようにする。【全職員】
(2) B子に対するカウンセリングを実施する。【担任】(3) 部活動(合唱クラブ)や学級活動への参加を援助し,対人関係の改善が図られるようにする。【担任,副担任,合唱部顧問】
- 学校や家庭に対する不安な心情を受容支持し,共感的に理解することによってB子の情緒を安定させる。
- 自分の行動や性格を見つめさせ,孤立の原因に気づかせる。
- 自分を肯定的に受け止めさせ,対人関係に自信を持たせる。
〔学級に対して〕
(1) ソシオメトリック・テストの結果を参考にして,B子に孤立感を抱かせない生活班を編成し,活動させる。(B子と相互選択の関係にある生徒を中心に編成する)【担任】
(2) 教師自信が思いやりの気持ちで生徒に接したり,思いやりの大切さに気づかせたりするなかで,相互受容的な学級の雰囲気づくりをする。【担任】
(3) 休み時間に学級全体でスポーツやゲームを実施するなどして親ぼくを深め,仲間意識を持たせる。【担任,副担任】
〔家庭に対して〕
(1) 両親に敬意を示し,肯定的に受け止めながら接することにより信頼関係を形成する。
(2) B子の問題を改善するためには,両親の協力が必要なことに気づかせ,具体的にどんなことをB子にしてやれるか共に考える。【担任,副担任】7. 指導援助
上記のような指導仮説に基づいて指導援助を繰り返すなかで,B子は自分自身を肯定的に受け止められるようになり,表情に明るさが見られ,学級での交友関係も徐々にではあるが増えてきている。
11月に再度実施したソシオメトリック・テストの結果からもそれをうかがい知ることができる。
(5月との比較) 被選択数 5 (+3) 被排斥数 12 (−7) 相互選択数 3 (+2) 相互排斥数 3 (−2) 8. 考察
この事例では,A教諭の「温かい心と冷静な目を持ち,そして,常に生徒の身近にいること」といった姿勢が問題行動の早期発見につながったものと言える。
また,おおよその仮説と計画性に基づいた資料収集,的確な診断,見通しを持った具体的な指導仮説が一貫性を持ち,B子に対する適切な指導援助に結びついたものである。
さらに,A教諭個人の力だけでなく,指導体制を組み,それぞれが役割を分担し,全職員の力でB子に対する指導援助を進めていったことが,問題行動の改善に大きな効果を上げたものと考えられる。