研究紀要第75号 「基礎・基本の定着と個性の伸長に関する研究 第2年次」 -044/137page
3.本年度の研究
(1)研究の経過
前年度は,「基礎・基本」と「個性」に関する文献研究とともに,調査のための理論研究を進め,そのことに基づいて実態調査を実施した。
実態調査は,この研究の方向づけとするため,先生方が,日ごろ学習活動において「基礎・基本」と「個性」をどのようにとらえ,どのように指導しているか等の現状について下記の領域で調査したものである。
- 学習指導の現状
- 個人差に応じた指導の現状
- 個別化・個性化を目指す学習形態
- 教育システム
- 児童生徒の実態把握
- 「基礎・基本の定着と個性の伸長」に関する意見
調査領域どとの結果を総合すると,「基礎・基本の定着と個性の伸長」に対する取り組みの現状について,次のようなことが言える。
基礎・基本の定着を図るためには,一斉指導も必要であるが,個別指導等の方法はかなり有効なものと考えられる。個別指導等は,同時に個人差に応じた指導に必要欠くべからざるものである。この個人差に応じた指導を展開するためには,進度の違いに応じて進める学習や興味・関心に基づいて「学習コース」,「学習方法」を選択して進める学習など,学習形態を工夫することが大切になる。また,ティーム・ティーチングによる指導や多目的スペースを利用した指導などの指導法を効果的に取り入れることが必要である。
更に,指導の在り方については,知識面に重き がおかれ,「見方や考え方」などの面に対する意 識が低い傾向がうかがわれる。これは,一人一人 の適性にまで目が向けられていない指導の現状を 示しているものと思われる。今後は,興味・関心 や適性を生かしながら,個性にかかわる「見方や 考え方」などに注目していくことが,児童生徒一 人一人の個性を生かし,伸ばすために極めて重要 であると考えられる。(なお,詳細については, 研究紀要第72号をご参照ください。)
本年度は,前年度の実態調査に基づいて,理論を構築すると共に全体仮説を設定した。次に,それを受けて教科仮説を設定し,小学校国語科・社会料,中学校数学科の実践研究を通して主題を追究した。
(2)研究のための理論
前年度の文献による理論研究,それに基づく実 態調査を踏まえて,「基礎・基本」と「個性」に ついて次のように考えた。
1.「基礎・基本」について
本研究では,基礎・基本を学習指導においては基礎的・基本的な内容としてとらえた。基礎的・基本的な内容は,「学習指導要領における教科の目標・内容」ととらえ,更に,児童生徒の実態に即して取り扱われる「教材の価値」までも含めるものとした。この基礎的・基本的な内容は,すべての児童生徒に共通に身につけさせるべきものであり,それは主体的に生涯学び続ける力となるように定着させなければならないものである。
そのためには,これを身につけさせる過程において,児童生徒一人一人の見方や考え方,感じ方などの個人差に深くかかわる,判断力,表現力,創造力,思考力等の能力を重視することが必要になるものと考えた。
2.「個性」について
本研究では,個性を児童生徒一人一人が持っている「よさ」としてとらえた。この「よさ」は,どの児童生徒にもかけがえのない特性として見いだされるものである。そして,児童生徒がこの「よさ」を意識したとき,勇気づけられ自信を持つことができ,学習への意欲がかきたてられるものと考えられる。すなわち,学習指導において児童生徒一人一人の「よさ」が生かされてこそ,自分自身がかけがえのない存在であることを自覚できるも