研究紀要第75号 「基礎・基本の定着と個性の伸長に関する研究 第2年次」 -058/137page
あり,時間的に余裕がなかったことから,児童の とまどいも見られたが,このような活動の繰り返 しが,「よさ」を生かし,育てる基本になるもの と考える。
基礎的・基本的な内容の定着が図られる過程で「よさ」が生かされ,意識化されることによって児童一人一人が自信を持ち,お互いに認め合う余裕と深い認識が生まれてくるものと考える。学級集団の意識化の高まりは,後に示す「社会的距離指数の変容」で明らかにとらえることができる。
学級集団の高まりとともに,一人の児童を追っ て具体的に個としての変容も述べることにする。 抽出児童としてとらえたF.Sは,教師の所見の中 で「寡黙傾向があり,孤立児である」と書かれて いる。所見が示す通り,「よさ」の把握の段階で は社会的距離指数62と低かったが,単元終了後には 85にまで高まっている。F.S自身は,「ノートに いっぱい書いてよかった。」,「国語の時間にノ ートにいっぱい書きたいと思う。」というまとめ をしている。これは,意欲的な学習への取り組み の表れであり,その姿勢が集団の中で認められ, 同時に自分自身の「よさ」が具体的に意識化され たものであると考える。 (P54参照)
(3)第二次実践における「よさ」の把握の仕方
第一次実践で「よさ」が意識化されたことを踏まえた上で,第二次実践で扱う教材との関連から「作文学習に対する興味・関心」と「構想に関すること」の調査をした。前者は,教材に対する興味・関心をみるものであり,後者は,基礎的・基本的な内容の観点としてのものである。また,第一次実践でとらえたジェクタビリティを基にその意識の調査をした。
第一次実践で意識化された「よさ」が,学習の 中で表出され,さらにその「よさ」を児童自身が 納得いくまで文章として表現させることをねらっ た教材の設定である。 (P52,53参照)
(4)意識した「よさ」を生かし,育てる学習指導
《1》 意識した「よさ」を生かす指導
意識化された「よさ」を生かすために,学習活動の中で次のような手だてを講じた。
ア.題材の設定
教科書教材「一まいの地図から」を一通り読ませ,物語を作るための観点を持たせた。その観点に基づいて「小さなリスの大旅行」という教材を与え,物語の構想に沿って分析させた。
題材の設定にあたっては,実際に具体物を持ち 寄ってのものであった。児童の思い入れを生かし 「よさ」を生かすための教師の助言を与えながら 題材の設定そのものに児童自身の考えを反映させ るという意図がある。(P52,53「構想表の中の 題材に対する見方や考え方」参照)
イ.グループ編成
児童一人一人が設定した題材と「よさ」の把握 の資料を基にグループ編成を行った。同じような 傾向の題材を持ち寄った児童どうしでグループ編 成をしたため,グループの中でもそれぞれの見方 や考え方が多様であること,表現したい内容や方 法の違いがあることなどを認識することを通して 一人一人の「よさ」の意識化を深めることを意図 したものである。 (P52参照)
ウ.構想表
基礎的・基本的な内容と「よさ」が生かせるように,児童に活用させる構想表を提示した。「題材に対する見方や考え方」,「自分に合った書き方」の欄を設定して自分の「よさ」が常に意識されるようにチェック欄を設けた。更に,基礎的・基本的な内容としての構想の観点が明確に持てるように教科書教材で学習した観点を入れた。
自分の「よさ」と基礎的・基本的な内容を踏ま えながら,物語の中の主題意識を一貫して持たせ るように主題メモの欄を設定した。作品ができあ がった時点で,自分なりの「よさ」が生かせたか, また,構想の観点が折り込まれていたかを評価す る項目も盛り込んだ。 (P52,53参照)
《2》 「よさ」を意識化させ,育てる指導
学習を通じて,「よさ」を意識させ,意識した「よさ」を育てるために,次のような手だてを考えた。