研究紀要第75号 「基礎・基本の定着と個性の伸長に関する研究 第2年次」 -064/137page
3.社会科における実践研究の内容
研究単元 小学校第3学年
「人びとのくらしと商店がい」(1)単元を展開するにあたって
社会科における基礎的・基本的な内容を身につけ,社会事象・事実を深く追究していくためには社会事象・事実に対する見方,考え方を育てていく必要がある。そのためには児童一人一人に課題意識の高揚と課題解決過程での学習内容の深まりとを求めていくことが大切である。
そこで本単元において,課題意識の高揚をはかるために,児童の日常のなにげない消費行動を見直させるための第一次の見学を行い,普段見落としている商店の様子や,物の値段に目を向けさせた。そして,見学の結果から出てきたお互いの疑問点や気づきをもとにして事象・事実のもつ意味を考える切り口とした。
また,課題解決過程においては,お互いがとらえてきた内容をつき合わせ,事象・事実を深く掘り下げながら相互の関連に気づかせるよう指導した。
ところで,同じひとつの事象・事実に対して児童個々のとらえ方はまさに多様である。また,追究過程でみせる思考の仕方,行動の仕方,表現の仕方にも違いがある。それらは児童一人一人のもつ「よさ」である。その「よさ」を生かすために児童の学習の過程を見直し,児童の追究活動や表現活動に変化を与えることにした。つまり,児童の思考過程の分析を行い,演繹型と帰納型さらに直観型と反省型に分類し,その特性に応じた追究過程をとらせること,表現の方法についても絵で表したり,文葦で表したりさせるなどの多様な方法を保障してやること,さらに児童の行動特性についても把握し,見学や話し合いの場での個々の役割りを明確にして取り組ませることなどを考慮に入れた学習過程を組織した。
特に,見学・調査の段階では,児童の追究特性と行動特性を取り上げ個の特性に応じた学習過程を組織した。つまり,演繹型の児童には課題に対しての自分たちの予想を考えさせることにより見学・調査内容を焦点化させ,より深く追究できるように配慮した。一方,帰納型の児童に対してはできる限り数多くの店を見学調査して店どうしの関係を広くとらえさせるために,まず見学・調査を行わせその結果をもとに整理させ気づかせていく追究過程をとらせるよう配慮した。また,行動特性についてはグループ内での役割りを示し,その役割りを意識させた活動ができるようにした。
さらにまとめの段階では,追究特性と表現特性に焦点をあてた学習活動を考えた。追究特性への配慮については,直観型の児童に対してはグループ内の考えを参考にしながらも自らの解釈を大切にしてまとめていけるように,反省型の児童には調べてわかったこと一つ一つのつながりに目をむけながらまとめていけるように指導助言を与えていくようにした。さらに表現特性については,絵で表す,文章で表す,図や表で表すなど,自分のやりやすい方法をとらせるよう配慮した。
また,「よさ」を意識化させるために,「こんなところとってもイイねカード」(以下,「イイねカード」と呼ぶ)を活用して,児童がお互いを認め合う場を設定するとともに,教師からの賞賛の機会も意図的に折り込むよう配慮した。
ところで,児童が学習の過程の中で社会事象・事実の意味をとらえていく際に,ジェクタビリティが大切なかかわりを持ってくる。例えば,自らの課題に対して必要な情報であるかどうか考えるとき,他の考えと比較して差異点や共通点を見つけだすとき,さらには調べ出された内容相互の関係をとらえるとき,ジェクタビリティの諸能力が刺激され高められていくものと考える。
これらの考えをもとに,授業実践を川俣町立川俣南小学校第3学年1・2組の児童60名を対象に,学級担任の協力教授により行った。
その詳細については,単元計画と実際に用いた手だてを並列させて,次ページから示すことにする。