研究紀要第75号 「基礎・基本の定着と個性の伸長に関する研究 第2年次」 -074/137page
す者もみられた。思考の流れは決して固定的なも のではなく,課題や学習内容によって変わるし, 発達段階にも大きく左右されるものである。今回 の研究で設定したコースは,あくまでも児童の特 性を生かすために仮設した学習の場であり,決し て固定的に考えるものではない。したがって,学 習コースの選択にあたっては,学習途中での修正 や変更を認めることを考えておかなければならな い。
5.まとめ
今回の研究は,社会事象・事実の意味を追究する一連の学習の中で,基礎的・基本的な内容を身につけさせ,児童一人一人のもつ「よさ」を生かし,育てていくことであった。
事前における基礎的・基本的な内容の分析,児童の「よさ」の把握にはじまり,「よさ」を生かすための指導の在り方を採る中で,児童は自らの「よさ」に気づき,「よさ」を発揮した学習を展開していった。その成果は,見学・調査の時の追究の姿勢,さらに学習の結果をまとめあげた作品にはっきりと表れている。
しかし,今回の研究では,分析と考察でも述べたように,単元全体を通じて学習コースの変更を認めなかったことや,表現活動,行動特性に応じた役割についても同様に途中での変更は行わなかったことなどが影響して,学習に不適応をおこす児童もみられた。
したがって,今後このような研究の実践にあたっては次のことに留意することが肝要である。
《1》 学習コースの選択や途中変更を認めるなど, 弾力的な学習コースを設定する。 《2》 学習の手引きの充実を図り,より主体的な学 習を児童が進められるようにする。 《3》 学級集団の中で,お互いの「よさ」を磨き合 うことができる場を設定する。
研究全体を通して,今回試みた手だては,基礎・ 基本の定着,個性の伸長を図るうえで,有効であ ったと考えているが,今後とも研究の積み重ねが 必要であろう。
【 授業者の感想 】
伊達郡川俣町立川俣南小学校教諭 橋本 利浩・酒井 智子
今回,研究協力校の一員として授業を行うにあたり,児童の思考型によるグループ分けのむずかしさに戸惑いを感じながらも,一人一人に応じた指導法の在り方について考える良い機会を得たと思っている。長期間にわたってのたいへんな授業ではあったが,児童・教師とも大きな収穫を得ることができた。
第一に,児童の思考型に応じた学習の進め方が,「学習の手引き」として用意されていたので,児童は生き生きと学習に取り組むことができた。
第二に,児童が自らの手で見学の計画を立てる活動を取り入れたことにより,自分の課題にあった調 査の仕方や質問の仕方,メモの取り方等の観察における基礎的な力が身についてきた。更に,3〜4人 の小グループ毎に活動していったことで,積極的に自分の責任を果たし,協力し合うといった心情面で の大きな成長が見られた。
第三に,イイねカードの記入や,見学して調べてきたことの発表会を通して,児童間で友達の活動を認め合い,励まし合う態度が育つとともに,書くことや話すことの抵抗が少なくなってきた。また,要点をおさえた話の聞き方もできるようになってきた。
演繹型思考の児童は,予想を立てて見学に臨んだので,思考が深まり,達成感が味わえ.大きな喜びや自信につながった。帰納型思考の児童は,出来るだけ多くの事象に触れたいという欲求が充足され,活動意欲が高まった。また,まとめる段階では,児童の得意な表現法が発揮され,喜々として取り組んでいる姿が見られた。
その後,理科等の課題解決学習においても,児童は社会科で学習した方法を応用するなど,学習意欲の高まりが見られるようになってきている。