研究紀要第79号 「基礎・基本の定着と個性の伸長に関する研究 第3年次」 -032/135page

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3.研究の経過
(1)実態調査とその結果
 第一年次は,「基礎・基本」と「個性」に関する文献研究とともに,調査のための理論研究を進め,それを基に実態調査を実施した。
 実態調査は,先生方が日ごろの学習活動において「基礎・基本」と「個性」をどのようにとらえ,指導しているか等の現状についての実態を把握し,研究主題に基づく理論構築及び研究仮説設定の基礎資料にすることを目的に下記の領域で実施した。
 ○学習指導の現状
 ○児童生徒の実態把握
 ○個別化・個性化を目指す学習形態
 ○個人差に応じた指導の現状
 ○教育システム
 ○「基礎・基本の定着と個性の伸長」に関する意見
 調査結果を総合すると,「基礎・基本の定着と個性の伸長」に関する取り組みの現状から,次の二つの課題が明らかになった。
1 個人差に応じた指導の必要性
 基礎・基本の定着を図るためには,一斉指導も必要であるが,個別指導等の方法が有効であると考えられる。個別指導等の方法は,個人差に応じた指導に欠かすことができないものである。
 この個人差に応じた指導を展開するためには,進度の違いに応じて進める学習や興味・関心に基づいて「学習コース」,「学習方法」を選択して進める学習など,学習形態を工夫することが大切になる。
 また,ティーム・ティーチングによる指導や多目的スペースを利用した指導などの指導法を効果的に取り入れることが必要になってくる。
2 一人一人の「ものの見方や考え方」を大切にする指導の重要性
 指導の在り方については,知識面に重きがおかれ,「ものの見方や考え方」等の面に対する意識が低い傾向がうかがわれる。これは一人一人の適性にまで目が向けられていない指導の現状を示しているものと思われる。
 今後は,興味・関心や適性を生かしながら,個性にかかわる「ものの見方や考え方」等に注目して指導を展開していくことが,児童生徒一人一人の個性を生かし,伸ばすために極めて重要であると考えられる。

(2)研究のための理論
 文献による理論研究及びそれに基づく実態調査を踏まえて,「基礎・基本」と「個性」について次のようにとらえた。
1.「基礎・基本」について
 本研究では,基礎・基本を学習指導においては基礎的・基本的な内容としてとらえた。基礎的・基本的な内容は,「学習指導要領における教科の目標・内容」ととらえ,更に,児童生徒の実態に即して取り扱われる「教材の持つ価値」までも含めるものとした。この基礎的・基本的な内容は,すべての児童生徒に共通に身につけさせるべきものであり,それは主休的に生涯学び続ける力となるように定着させなければならないものである。
 そのためには,これを身につけさせる過程において,児童生徒一人一人の見方や考え方,感じ方などの個人差に深くかかわる,思考力,判断力,表現力,創造力等の能力を重視することが必要になるものと考えた。
*「教材の持つ価値」は,教材そのものが内容として持っている価値であり.学習者がその教材を学習することにより自身の内在的世界観の形成に深くかかわり,人格形成に役立つものととらえることができる。
 一時間一時間の授業実践の中では,技能面が主になりがちで教材の持つ価値は見えにくい性格のものである。そこで,本研究では,意図的に基礎的・基本的な内容を「学習指導要領の目標・内容」のほかに「教材の持つ価値」を明記する。このことによって,ともすれば見失い,忘れがちな教材の価値を常に意識のうえに顕在化させておこうとするものである。これは,「自己教育力の育成」等の主体性を重視する新学習指導要領の精神にもかなった方向性を示していると考えられる。


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