研究紀要第79号 「基礎・基本の定着と個性の伸長に関する研究 第3年次」 -050/135page
繰り返し指導したことは,児童の知識・理解を深化させるとともに,表現技能を高める上で有効であり,児童の個人差にも対応できたと考える。
○班での相互評価,「発展カード」を交換させる活動と個人カルテ,座席表を連動させた個別指導は,児童の「よさ」を育てる上で役立ったと思う。
2 2か年の継続研究から
2か年の継続研究から,中・長期的な変容をみるため,実践対象の児童は,昨年度の国語科と同じであった。
○「よさ」の把握の段階での指導観の確立は,「よさ」を生かし,意識化させ,伸ばす指導の各段階に指導の場と内容を組み入れる上で有効だった。
○「よさ」の意識化の場では,学習の集約とともに,児童,教師の気づかなかった「よさ」をとらえることができた。
(2)今後の課題
今後,このような実践をする場合には,次のような点に配慮することが必要と思われる。
1 相互評価,自己評価の指導では,児童の個人差に配慮した明確な観点を設定する必要がある。
2 表現欲求を満たし,構想を豊かにするために,鑑賞教材を充実し,造形的体験の場を多くする。
3 「よさ」を伸ばすために,個と集団とのかかわりの中で,学級のまとまりと個の「よさ」を伸ばす相乗的な効果が表れる手だてを工夫する。
【授業者の感想】
福島市立福島第二小学校 教諭 佐藤 吉郎
「基礎・基本の定着と個性の伸長」に関する研究の協力員として,国語科と図画工作科の2科目にわたって2年間検証授業をさせていただく幸運に恵まれた。昨年度の国語科とは違って,今年度の図画工作科は苦手中の苦手教科である。しかし今振り返って見ると,これがかえって昨年度とは別な面から多くを得ることが出来たと感謝している。
以下,特に心に残っている点を述べてみたい。
1. 「学習の手引」や「表現の手引」の活用
図画工作科の苦手な私が,授業を進める上で最も役立ったのが標記の2種類のマニュアルであった。本題材で定着を図る基礎的・基本的な内容が,発想・構想,下絵の製作,彩色,鑑賞の各段階ごとに重点化され,絵や図表等も加えられて児童に分かりやすく作成されていたからである。しかも,これらの手引は,児童の多様な発想を授助するように,いくつか例示する形で作られていたことも,ジェクタビリティを刺激し,高揚させる上で効果的であったと思われる。
2. 「よさ」の把握とカルテの活用
昨年度からの継続実践がゆえに,より実用的で,効果的な活用を図ることができたと思われる。
特に,タック紙の座席表を使用し,それを授業終了後にカルテにてん付する方法などは,他の教科でも活用できそうである。更に,昨年度の国語科で作成した親,教師,児童自身による「よさ」のカルテが基本的には今年度も図画工作科で活用できたことも,学級経営を進める上での一つの方向性が見えたように思えてならない。
3. 「ホップカード」, 「ステップカード」, 「ジャンプカード」の活用
これらは, 「よさ」を伸ばす手だてとして,各段階で活用した。昨年度国語科で用いた手法の延長だととらえている。個人の製作活動という点では,作文や詩の学習と共通する面も多く,相互にかかわり合いをもたせながら,認め合う場を設定したことは,個を伸ばすとともに,学級集団の凝集性を高める上からも有効な活動だと思われる。
基礎・基本とは,読み・書き・計算のいわゆる3 R′Sにhuman relationships(人間関係)を加えた4R′Sととらえている私にとっては,重宝な実践であった。