研究紀要第83号 「基礎・基本の定着と個性の伸長に関する研究 第4年次」 -032/123page

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大切な時期である。将来にわたりよりよい生き方を求めていくためには,知的な発達とともに,基礎・基本となる道徳性及び自主的,実践的な態度の育成が不可欠であると考えたのである。

 特に,道徳教育の要となる道徳の時間では,各学年の「道徳の内容」14項目,18項目,22項目を基礎的・基本的内容ととらえ,「自分を見つめる」学習を通して,内面に根ざした道徳性の育成を図ろうとした。

(2) 「個性」について

 各教科においては,個性を児童生徒一人一人が持っている「よさ」としてとらえた。この「よさ」は,どの児童生徒にもかけがえのない特性として見いだされるものである。そして,児童生徒が自分の「よさ」に気づき,更に他からも認められることにより,自分で自分の「よさ」を意識したとき,勇気づけられ自信を持つことができ,学習への意欲がかきたてられるものと考える。すなわち,各教科の指導において児童生徒一人一人の「よさ」が生かされてこそ,自分自身がかけがえのない存在であることを自覚できるものと考える。このことがやがて自分自身の在り方と生き方を主体的に選択でき,独自性と柔軟性を兼ねそなえた人間の育成につながるものと考えた。

 そのためには,知識面だけでなく見方や考え方,感じ方,興味・関心,学習速度などの違いにみられる個人差に配慮し,個性的で確かな思考力,判断力,表現力,創造力等の能力を高める視点から,指導内容,方法を個を見つめたものに改善し個に返すことが必要であると考えた。

 道徳及び特別活動においては,個性を児童・生徒一人一人が持っている「その子らしさ」としてとらえた。この「その子らしさ」は,学校生活の中でその子らしい言動,その子らしい見方や考え方,その子らしい活動の仕方などの具体的な形となって表れてくる。それらには,その子特有の特性が大きくかかわっているのである。「その子らしさ(自分らしさ)」は,印象的な出来事や人間関係の中で少しずつ意識し,自覚していくことが多い。

 道徳や特別活動の学習では,自分の考えと他の考えを比較させ「その子らしさ」について深く考えさせたり,集団活動の中で「その子らしさ」を発見させたりするなど,「その子らしさ」を意図的,計画的に引き出し,意識させていきたい。そのためにも,集団の中でより多くの考え方に出合わせ,吟味できる活動を多く取り入れていく。

 特に,道徳の時間では,価値に対するその子らしいものの見方や考え方が表出できそうな場や機会を設定し,他の多面的で多様な考え方と比較検討することを通して,「その子らしさ」を自覚させていきたい。

(3) 「基礎・基本」と「個性」のかかわりについて

 各教科の指導における基礎的・基本的な内容は,共通に身につけさせるべきものである。しかし,その定着までの過程は人それぞれに極めて多様であり,児童生徒の学習内容に対する興味・関心の違いや,見方や考え方の違い等を十分に考慮した指導が必要になってくる。そこで,一人一人の児童生徒の持つ「よさ」を重視して生き生きと活動させ,その連続の中で「よさ」が生かされ,更に伸長するように指導法を改善していくことが重要である。このことによって初めて基礎的・基本的な内容が定着し,「よさ」が伸長するものと考える。

 道徳及び特別活動の指導における基礎的・基本的内容も,共通に身につけさせるべきものである。しかし,段階的な評価はできるにしても定着を見極めることは非常に難しいことである。なぜなら,道徳では,児童生徒一人一人の内面的資質として,特別活動では自主的,実践的な態度として育成されるからである。

 基礎的・基本的な内容を身につけさせていくには,結果を急がず,長期間にわたる意図的な計画を基に児童生徒の持つ「その子らしさ」を重視し,生かす指導を工夫し重ねることにより可能になると考える。その過程で,児童生徒一人一人の「その子らしさ」は,意識され自覚され,さらに伸長されていくものと考える。


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