研究紀要第83号 「基礎・基本の定着と個性の伸長に関する研究 第4年次」 -033/123page
特に,道徳の時間では,基礎的・基本的な内容としての「道徳の内容」を基に,児童生徒は自分自身を深く見つめる過程で内面的に「その子らしさ」を自覚していくものと考える。このような基礎的・基本的な内容を基にした価値の内面的自覚を,密に繰り返すことにより,道徳的実践力が高まってくると考える。
基礎的・基本的な内容の定着を目指し,児童生徒一人一人の「よさ」や「その子らしさ」が生かされ育てられていく過程において,思考力,判断力,表現力,創造力等の能力(本研究においてはこれらの能力をジェクタビリティと呼ぶ)が深くかかわりを持つと考えられる。つまり,基礎的・基本的な内容の定着を目指す過程において,把握した児童生徒一人一人の「よさ」や「その子らしさ」を生かす場を設定すれば,ジェクタビリティが刺激され,それぞれが相互に作用し合うことによって,基礎的・基本的な内容の定着が図られながら,「よさ」や「その子らしさ」が伸ばされ育てられていくものと考える。
※ジェクタビリティ(Jectability)
これは福島県教育センターの造語である。
judgment(判断),expression(表現),creation(創造),thought(思考)のそれぞれの頭文字に−ability(能力)を合成したものである。本研究では,これを判断力,表現力,創造力,思考力等の能力と規定して用いる。「個性を発揮しつつ生きることができる力を育てるためには,児童一人一人が自分のものの見方や考え方をもって判断し行動できるようにすることが大切であり,各教科において,思考力,判断力,表現力などの能力の育成を重視する必要がある。」(「小学校指導書 教育課程編成の原則」平成元年6月)と示されているように,ジェクタビリティは「自分のものの見方や考え方」の基になる大切な要素と考えられるものである。
4.研究仮説と実践研究の方策
道徳及び特別活動では,学校教育全体を通して心身の調和の取れた人間の形成を目指しているが,本研究は学習指導の改善に資することを目指していることから,今回は,道徳及び特別活動においては,意図的,計画的に実践研究が進められ,検証,分析が可能な「道徳の時間」に実践を限定して進めることとした。
(1) 研究仮説の設定と実践への具体化の方向
実態調査を通して明らかにされた個人差に応じた指導の必要性や,一人一人のものの見方や考え方を大切にする指導の重要性という課題を実践的に解決していくために,研究のための基本的な考えに基づいて研究仮説を次のように設定した。
研究仮説
学習指導において,児童生徒の持っている「よさ」や「その子らしさ」を把握し,その「よさ」や「その子らしさ」を生かす視点から,達成度の個人差や興味・関心,適性に応じる指導の在り方を工夫すれば,基礎的・基本的な内容を身につけさせたり自覚させたりするとともに,一人一人の個性を生かし,伸ばすことができるであろう。 この研究仮説をもとに,各教科及び道徳の時間おける研究仮説(教科等仮説)を設定し,実践を通して主題を追究した。
更に,研究仮説を検証していくために,「実践への方策」と「実践への異体化の方向」を図1−1(34ページ)のように考えた。各教科では,教科の特性によって多少の違いはあるものの,おおよそこのような形で実践への異体化の方向として位置づけられるものと考える。
なお,「実践への異体化の方向」については,各教科や道徳の時間の実践の中で取り扱われる教材,題材等に即して更に異体化されていくものである。
(2) 「よさ」や「その子らしさ」を育てる学習指導の基本型
32ページに示した3(2)「個性について」に記載したように,ここでは,各教科で「よさ」を,道徳の時間で「その子らしさ」を,「個性」に照応する言葉として用いている。