研究紀要第83号 「基礎・基本の定着と個性の伸長に関する研究 第4年次」 -046/123page
<3> 「よさ」を意識化させるための個人カルテの活用とその集積
これまでの個人カルテは,教師の指導のために主に使われていた傾向があった。その際に,記録の累積をするために転記する内容や量が多く,教師の負担が大きかった面が見られる。そこで,今回の実践では,児童の自己評価や教師の指導にも生かされ,更に,教師の記録の負担を軽減する個人カルテを工夫した。
「角の大きさ」の授業においては,41ページに示した「個人カルテ1」のように,右上に「私のよいところ」の欄を設け,事前調査で把握した児童の「よさ」を書かせ,常に振り返るようにさせた。毎時間ごとの自己評価の欄に,観点ごとに自己評価させ,「先生から」として教師のコメントを加えた。座席表に記録したもので指導上児童には知らせたくない内容は,欄外に添付しコピーを取り,コピー終了後記録をはがし児童に返すようにした。
「小数」の授業においては,41ページに示した「個人カルテ2」のように単元を通して意識して欲しい児童の「よさ」を一つだけにしぼり,「よさ」を赤丸で囲み矢印で示した。毎時間の終わりにその「よさ」についての自己評価をさせ,「よさ」の意識化を図った。
(5) 「よさ」を伸ばす指導
基礎的・基本的な内容の学習を終わったところで,それらの学習内容を生かして,問題作りとそれを解き合う発展学習の場を単元の最後に設定した。問題作りの場面は,児童一人一人の学習内容の理解度や定着度の違い,生活経験の違いなどが,児童の創意,工夫などの違いと絡まり,多様な問題が作られると考えた。 この多様な問題に,単元を通して児童一人一人の「よさ」を把握し,生かし,意識化されてきた児童の「よさ」が具体的に表われてくると考えた。 <1> 児童の「自作問題集」による発展学習の場の設定
「角の大きさ」の授業においては,下図に示したS男の例のように,問題作りの用紙に,その問題を作った意図や難易度を書かせた。また,特定の友達に問題を解かせたい場合は,相手を指名して挑戦できるようにした。
「小数」の授業においては,自由に解き合えるように相手を指名する欄を設けなかった。
「この間題を作ったわけ」の欄にその児童の問題に対する思い入れが書かれ,その児童の「よさ」が表われると考えた。
<2> 「自作問題集」の活用による相互交流
児童一人一人が作った問題を全部印刷し,問題集として一冊にまとめた。自分が作成した問題を友達が解いてくれることは,大きな喜びとなる。また,問題を解く場合にも意欲的に好みに応じて,その子の「よさ」を十分に発揮すると予想した。解き終わった後,問題を作った児童に採点してもらい,問題についての感想を書き,それぞれの児童の台紙にその感想を貼らせた。児童は多くの友達から寄せられた感想を読むことで自分の「よさ」の意識化につながると考えた。
これら一連の発展学習を通して児童一人一人の「よさ」を伸ばすことができると考えた。