研究紀要第83号 「基礎・基本の定着と個性の伸長に関する研究 第4年次」 -058/123page
に対応していくための好機会でもある。
<4> 意見交流 …………児童自身が活用する座席表と意見交流の場作り
道徳の授業では,問題状況に対する自分の考えを整理させたあと,よりよい価値を求めて話し合い活動を展開させることが多い。本研究では,話し合い活動の前段階として「意見交流」を位置づけた。
「意見交流」とは次のような活動をさす。
自分の考えを聞いてもらったり,友だちの考えを聞いたりして,多面的で多様な考えを交換し合うミニ話し合い活動。 似た活動として教科の学習のグループ学習活動があげられるが,次のような改善を加えて本研究独自の活動として位置づけた。
ア.固定的な学習班での活動というわくを取り除き,交流相手を児童白身に決めさせるようにした。
道徳の時間での話し合いでは,「あの人の考えはどうだろう」「自分の考えと反対の考えの理由は何だろう」というように常にものの見方や考え方の背景が問題になるからである。
イ.交流相手を決めるには,相手のおおよその考えをとらえておく必要がある。
そこで,1時間扱いの授業では事前に実施した意識調査,2時間扱いの授業では問題状況に対する自分の考えを「座席表」に整理し,児童に配布して交流相手を決めさせた。
ウ.意見交流の場作り
「自分らしさ」をまず自分が意識し,それが広く認められ,自覚まで高まっていくには,自分の考えを相手に過不足なく伝える表現力と相手の話す内容を正確に聞き取り理解する力が大切になってくる。話し相手と理解し合い,お互いの考えを尊重し合っていくための基本的な能力ともいえよう。
そこで,意見交流の場として,次の方法や形態を考え,資料や学習の児童の実態に応じて導入した。
○ 対話形式の交流 … 主として二人組の交流
○ グループ討議形式の交流 … 意見の異なる数人でグループを作っての交流
○ ミニパネル形式の交流 … パネルディスカッションを取り入れた交流
○ ワークショップ形式の交流 … 座席表によらないで,自分の立場をシートなどに書いて示し,それを基に交流相手やグループを決めての交流
<6> 意見交流の実際
意見交流では,自分の考えを押しつけたり,相手の考えの矛盾をついて困らせたりすることがないように配慮して指導にあたった。また,結論を無理に求めることをしないで,いろいろな考えを知ることに力点を置くよう指導した。
2時間扱いの「大冒険」の授業では,1時目の終末に「小児麻痺の泰明ちゃんを『トットちゃんの木』に登らせたトットちゃんの行動について」自分の考えを書かせた。それを座席表に整理して児童に配布し,2時間目に意見交流させていった。
ここでは,4人によるグループ討議の様子を述べていきたい。4人のそれぞれの考えは次の通りである。
S子……トットちゃんは,自分の木にのぼって泰明ちゃんといっしょにいろいろな話をしたかったと思う。木のぼりは思いやりの木のぼりです。
E男……やす明ちゃんがうまくいったからいいけど,失敗することをぜんぜん考えないでやったとしたら「大むちゃくちゃ」だ。みとめられない。