研究紀要第83号 「基礎・基本の定着と個性の伸長に関する研究 第4年次」 -061/123page
5.道徳における分析と考察
(1) 「その子らしさの把握と意識させる」指導について
<1> 「その子らしさ」をとらえる調査
この調査は26項目の視点を通し,意図的に自分を見つめ直させようとした意識調査である。親と教師と自分の三者の目を通して,年3回実施した。ここでは抽出児3名に自分らしい項目を5項目を上げさせ,「自分らしさ」を見つめる目の変容を取り上げる。
※ △は変化した項目
児童
「自分らしさ」としてあげた項目
1回目
2回目
K・S
○いつも明るい
○活発な生活態度
○おもしろいところ
○動作がすばやい
○よく思われたい気持ちが強い○いつも明るい
○活発な生活態度
○よく思われたい気持ちが強い
△最後までがんばる
○動作がすばやいH・H
○だいたんな方である
○とてものんきである
○親切かどうか分らない
○活発な生活態度
○おもしろいところ○だいたんな方である
○とてものんきである
△どちらかといえば親切
△人とつきあうのが上手
○おもしろいところS・H
○のんきなところ
○競争することが好き
○おもしろいところ
○動作がすばやい
○あまり緊張しない○のんきなところ
○競争することが好き
○おもしろいところ
△ものごとをまよわず決める
○あまり緊張しないこのように2回の調査で1〜2項目の変化が見られた。また,H男のようにあげた項目は変わらないとしても,1回目に「親切かどうか分からない」と答えていたのが2回目に「どちらかといえば親切である」と質的な変化をみせた事例が8例見られた。
学級33名の1回目調査と2回目調査の比較は次の通りである。(1〜4項目を変更した児童は19名)
「自分らしさ」の見方を変えた項目数 人数
0 14人
1項目
10人
2項目
5人
3項目
3人
4項目
2人
5項目
0
○ 1〜2項目変更した児童のうち, 8名 が自分らしさを見方の質の変化でとらえている。例:親切かどうかわからない → どちらかといえば親切である また,自分を見つめる目が変化した原因として下のような理由をあげている。(自由記述による)
○ この意識調査自体が刺激になった 7/19
○ 父母の見る目が参考になった 2/19
○ 先生の見る目が参考になった 2/19
○ 友だちの見る目が参考になった 4/19
○ 道徳の授業がきっかけになった 5/19
以上の分析等から,児童は「自分らしさ」を見つめる視点を多くもっていないこと,他の人が見てくれる視点が参考になることが分かる。また,この調査自体が参考になったという理由からも,意図的に「自分を見つめる」場の設定と計画的に基礎的・基本的内容を窓口として「自分を見つめる」ことの大切さを改めて確認できた。
<2> 「価値に対するその子らしさをとらえ意識させる」指導について
1〜2週間前に授業で扱う価値について,それまでの自分の考えをシートに自由記述法でまとめさせた。教師はそれを座席表カルテに整理して把握し,児童が記述したシートにコメントを記入した。このような事前調査はともすれば実態調査としての使い方が強調されがちになるが,本研究ではそれを授業の導入でも使用した。一つの資料を教師にとっては価値に対する児童の見方や考え方の把握の資料として,児童にとってはそれまでの価値に対する自分の見方や考え方を明確にさせ授業の出発点を意識させる資料として機能させる点では有効であった。
自分を見つめる際の具体的視点としてうまく機能したかについての考察は別項で述べる。
(2) 「その子らしさを生かす」指導について
<1> 先行オーガナイザー法と視覚的構造的板書による事実認識
道徳の授業では,資料に表現された事実をしっかり認識するかどうかが,その後の話し合いに大きな影響を与える。資料に表された問題状況をまちまちにとらえていたのでは,深まりある話し合いは期待できないのである。
本研究では,先行オーガナイザーとそれに続く視覚的構造的板書により,児童に事実を構造的に把握させようとした。以下に相互作用過程分析の結果を示し考察を加えたい。
○板作用過程分析とは
相互作用とは,「ある個人が他社に働きかけ影響を与えると同時に,他者もその個人の働きかけに影響を与えるこのような関係が成立している場合のこと」をいう。授業分析は,この相互作用が時間の経過とともに展開していく過程や,状況によって変化していく過程をカテゴリーシステムによって分析したものである。
問題解決の過程は,「1 方向づけの問題」を強調する段階から,「2 評価の問題」へついで「3 統制の問題」に移行するという三つの位相を通過して