研究紀要第83号 「基礎・基本の定着と個性の伸長に関する研究 第4年次」 -063/123page
偏ったった考えの述べ合いに終始すると,グラフの傾きは小さいからである。意見交流が,多様な考えに触れるという役割とともに,話し合いの論点を整理する役割を果たしていると考察できよう。
(3) 「その子らしさを自覚させる」指導について
展開後段にあたる「価値の内面的自覚」を図る段階である。この段階までに児童は二つの書く活動によって,授業前の価値に対する自分の考えを整理したり(視点1),資料に表された問題状況に対する自分の考えをまとめたり(視点2)してきた。更に,多様な見方や考え方を出し合い,更に高い価値観について話し合いを展開してきた。ここでは,それらを総合的に比較させ,具体的にそれまでの自分を見つめさせようとした。以下に「すれちがい」と「大冒険」の道徳シート記述内容の分析を述べる。
道徳シートの記述内容分析
すれちがい
大冒険
自分を見つめる視点1.2.についてふれながら記述している 3名 4名 自分を見つめる視点1だけにふれて記述している 20名 24名 自分を見つめる視点2だけにふれて記述している 3名 0名 自分を見つめる視点3だけにふれて記述している 3名 3名 じぶんを見つめる視点に全然ふれないで記述している 4名 2名 ▲道徳シートの記述内容分析結果 これらの結果から,当初,ねらいとした視点1.2.3を総合的に比較検討して,具体的に自分を見つめることは,まだまだ児童になじんでいないことが分かる。
しかし,視点1を比較の対象としている児童が多数(すれちがい 60% 大冒険 72%)みられ,内容も具体性に富んでいた。(60ページのH子の事例参照)
このことは,自分を見つめるという価値の内面的自覚では,次の段階を経ることがその具体性を高める要因となったことをうかがわせる。
ア. 事前の意識調査により,自分の価値内容についての考えを意識し,いわば自分を見つめるための材料を整えるとともに,さらに深く自分を見つめようとする「構え」を形成する。 ↓ イ. 多様な価値観にふれ,自分を見つめる視点を広げる。 ↓ ウ. より高い価値観を検討し合い,自分を見つめる視点をより明確にする。 (4) 基礎的・基本的な内容に支えられた道徳的実践力の育成について
本研究により道徳的実践力が育成されたかどうかについては,児童の内面に関わることであり長期にわたる道徳的実践の事例観察を通して慎重に検討していかなければならない。
しかし,実践授業では基礎的・基本的な内容としての「道徳の内容」を,児童の発達段階や実態,見方や考え方の広がり等を的確に分析把握し,適切な資料を通して多面的に検討させようとしてきた。このように「道徳の内容」の22項目から自分自身を具体的に見つめることを通して,より広がりのある道徳的実践力が身についてくると考える。その表れの一端として,「検査による道徳性の評価」の変容を以下にあげておきたい。
項目
6月上旬実施
11月下旬実施
2−(4)
寛容・謙虚心情 平均 3.0 心情 平均 3.1 判断 平均 2.9 判断 平均 2.9 1−(6)
個性伸長心情 平均 3.0 心情 平均 3.2 判断 平均 2.8 判断 平均 3.0 1−(4)
明朗・誠実心情 平均 3.1 心情 平均 3.1 判断 平均 3.0 判断 平均 3.2 2−(3)
信頼・友情心情 平均 3.0 心情 平均 3.1 判断 平均 2.7 判断 平均 3.0 ○ 数値は5段階評価の平均を示す ○ N=33 ○ 検査は「教研式:ヒューマン新版道徳性検査」<≪図書文化≫による
(5) ジェクタビリティの育成について
本研究では,ジェクタビリティの諸能力を指導過程の各段階に位置づけて刺激するよう配慮してきた。その中でも,書く活動により自分の考えを明確にすること,意見交流で自分の考えを過不足なく相手に伝えることなどの「表現力」を刺激する学習活動を多く取り入れた。道徳の時間では,自分の考えと他の考えとの比較により,より高い