研究紀要第83号 「基礎・基本の定着と個性の伸長に関する研究 第4年次」 -064/123page
価値観を見い出していけるからである。また,自分の考えを明確にしておくことは,多様な考えを検討していく際の「判断力」「思考力」にも大きく関与することである。
このようにとらえると,各段階に位置づけたジェクタビリティの諸要素は密に連動しており,前述のような活動を繰り返していくことによって育成されるものと考える。
6.道徳における研究のまとめ
本研究のねらいは,児童一人一人の持っている「その子らしさ」を把握し,意識させ,それを授業の中で十分に生かしながら自覚まで高めさせ,あわせて基礎的・基本的な内容に支えられた道徳的実践力を育成していこうとするものであった。
そのねらいにそって基本的な指導過程を構想し各段階に具体的な手だてを位置づけて実践にあたったが,その基底となる考えは「児童一人一人の内面にうったえ,自分らしさを見つめる目を育てる」ところにあった。
その点から,本研究の成果を以下にあげる。
<1> 自分らしさ(その子らしさ)を内面的に自覚していくには,自分を見つめる具体的視点が必要である。その視点作りには,事前の価値に意識調査を活用すると有効である。
<2> 教師は,授業の各段階に表れる「その子らしさ」を座席表などの資料を活用して把握し生かそうとした。そのような教師の資料は,同時に自分を見つめる児童側の大切な資料となった。
<3> 多様な見方や考え方の意見相互交流は,自分の考えを吟味,検討していく際の有力な方法となる。交流は,隣席同士とか学習班などの固定的な相手に限定せず,むしろ,児童の意図的な選定にゆだねることが大事である。
<4> 多様な見方や考え方と自分の考えを比較秤量することが「自分らしさ」の発見につながる。
同時に,よさの認め合いにもつながった。
【授業者の感想】
国見町立藤田小学校 教諭 佐藤 喜夫 道徳の検証授業をさせていただく幸運に恵まれた。この研究中,児童から「道徳っておもしろい。この次どんなものをするのかな。今度は誰と交流しようかな。」等の声が聞かれた。これは,児童一人一人のものの見方,考え方を尊重し,自己をしっかり見つめさせることに主眼をおいた指導がなされたからだと思う。また,指導過程において,緻密にいくつかの手だてが施されたためだと考える。そこで,その中から特に重要な二つの手だてについて述べてみたい。 ○ 資料提示の工夫 道徳の授業において,問題状況を的確に把握することは,欠かすことができない要件である。しかし,これまでは,国語の読解のようになるとか,時間がかかり過ぎるなどと考え,意識して状況を把握させずに,その時の心情を聞くことが多かった。先行オーガナイザー法によって,資料を興味を持って読ませることや中心場面に児童の思考を焦点化させることもできた。また,状況の確認の際,具体的な意見が多くなった。問題状況の把握が速く的確になったといえる。 ○ 意見の相互交流 授業の中で意見交流が楽しかったという児童の感想が一番多かった。それは,交流の中で,自分とは違った見方や考え方に接し,自分の価値認識を問い直すことができたからではなかったかと思う。また,交流を通して,うわべだけでなく,内面からも友達を認め合うことができるようになった。 この研究を通して,上記の二点の外にも事前調査の活用の仕方・板書の工夫・資料の分析等,道徳の時間の本質,指導の在り方を学ぶことができた。それとともに,知らなかった児童のその子らしさも見つけることができた。この貴重な体験を,今後の指導の糧としていきたい。