研究紀要第84号 「授業におけるコンピューターの効果的な活用に関する研究 第1年次」 -082/123page
【化学IB】
(1) 学習指導におけるコンピュータ活用の基本的な考え方
化学IBは,これまでの「化学」から反応の速さと平衡,高分子化合物を除き,新たに探究活動を加えて構成されている。内容の取り扱いでは,沸点上昇,浸透圧等についての定量的な扱いを止め,結晶格子やヨウ素価等については触れないことにし,その分,観察,実験を最重要祝して随所にコンピュータの活用を求めている。化学の学習においては観察,実験の直接経験を至上とするがその中にコンピュータを支援ツールとして取り入れて観察,実験の効果を高め,操作を簡便化し,理解を深めることは重要なことである。前述の調査(p.80)によれば,理科の中でも物理と化学の授業においてコンピュータの活用例が多い。これらのことから,コンピュータを活用する視点(p.80)に基づき,化学IBの学習指導要領と学習の目標に合致するコンピュータの活用場面について関連表を作成した。
(2) 学習指導内容とコンピュータの機能との関連
表3−8
項目
学習内容とコンピュータの活用場面・目的
活用するコンピュータの機能
検
計
測
シ
図
文
通
(1)物質の構造と状態
ア 物質の構成イ 原子の構造 「周期表と元素の性質」 テータベースとして資料活用学習 ○ ウ 化学結合 エ 純物質と混合物 「物質の三態」構成粒子の状態と運動のモデル化による理解 ○ ○ 「ボイル・シャルルの法則」センサーによる計測とグラフ化 ○ ○ 「ヘンリーの法則」圧力の変化と溶解現象のモデル化と理解 ○ ○ 「蒸気圧曲線」純物質の蒸気圧と溶液の蒸気圧の比較測定 ○ ○ 「浸透圧」 浸透圧の測定と浸透現象のモデル化による理解 ○ ○ ○ オ 物質の構造と状態に関する探究活動 「気体の性質」圧力・温度センサーを用いた探求的実験と報告書作成 ○ ○ ○ ○ (2) 物質の性質
ア 無機物質イ 有機化合物 「分子の構造」 分子の組み上げのモデル化と理解 ○ ○ ウ 物質の性質に関する探究活動 「分子の構造」 分子の構造,官能基と反応についてのモデル化と理解,探究,報告書作成 ○ ○ ○ (3)物質の変化
ア 酸と塩基の反応イ 酸化還元反応 ウ 化学反応と熱 エ 物質の変化に関する探究活動 「中和滴定」 滴定曲線の作成,中和反応の探究,報告書作成 ○
○
○
○
(3) コンピュータの機能を生かした授業について
○ 関連表の中の「気体の性質(探究活動)」における活用例
<1> プラスチック注射器の先端部に圧力センサーと温度センサーを取り付けてコンピュータに接続し,ピストンをゆっくり押し込めばボイルの法則が実証される。ピストンを速めに押せば温度の上昇が観測され,これからは気体の断熱圧縮や膨張,その応用まで学習を展開できる。
<2> 上の2つのセンサーを取り付けた試験管を温度の異なる水中へ入れればシャルルの法則が検証される。気体の緩慢な温度変化から,学習はここでも分子運動論へ発展し得る。
<3> 圧力,温度センサーを取り付けた容器に注射器で異なる気体を送り込めば分圧の法則が検証される。酸素と一酸化窒素を組み合わせれば,反応の仕組み,実在気体,分子間力など多岐にわたる学習の展開が可能である。
<4> 圧力,温度センサーを取り付けた容器を電子てんびんにのせて液体を1滴落とし,直ちに栓をして蒸発を待つ時は,表示されるグラフから蒸発の様子が推察され,グラフが一定値を示せば気体の分子量を求め得る。液体の種類をかえて行えば,グラフの比較から分子量と分子運動,分子量と沸点との関わりまで課題は広がり得る。
<5> これらのまとめとして文書機能を用いてレポートを作成する。