研究紀要第84号 「授業におけるコンピューターの効果的な活用に関する研究 第1年次」 -083/123page
【生物IB】
(1)学習指導におけるコンピュータ活用の基本的な考え方
高等学校理科において,生物的な領域を含むものは総合理科,生物IA,生物IB,生物2(ローマ数字)の4科目である。生物IBでは生物学の基礎・基本を徹底させ,観察,実験などの活動を通して,生物学的に探究する能力や態度を育成する。 コンピュータ活用の視点(p.80)を踏まえ,生物IBにおけるコンピュータ活用の目的を次の1〜3とした。
(2)学習指導内容とコンピュータの機能との関連
1 理解が困難な学習内容において,他の教材・教具以上に指導効果をあげる。
2 観察,実験が行いにくい学習内容の場合,間接体験をさせる。
3 観察,実験における検索,計測,処理などで,煩雑さの解消や時間の短縮を図る。
1〜3の活用目的と学習内容の目標のねらいが合致するコンピュータの機能を生かした活用場面を求め,その関連表を作成した。
表4−9 (表中の1〜3は(1)の活用目的をさす)
項目 学習内容とコンピュータ関連の場面 コンピュータの活用目的 活用するコンピュータの機能 検 計 測 シ 図 文 通 (1)
生
物
体
の
構
造
と
機
能ア 細胞 「浸透圧の実験」・移動する水の体積活動 3 ○ イ 代謝 「微生物の観察」・微生物の分類検索
「光合成の実験」・光合成量と外的条件測定3
3○
○
○ウ 生物体の構造と機能に関する探究活動 ※「酵素の実験」
・反応量と外的条件の実験と報告書作成
3
○
○
○(2)
生
命
の
連
続
性ア 生殖と発生 「二遺伝子雑種の分離比」・分離比の確率計算 1 2 ○ イ 遺伝と変異 「環境変異の調査」・個体の形質変異分布測定 3 ○ ○ ウ 生命の連続性に関する探究活動 ※「ショウジョウハエの交雑実験」
・系統の分離比の実験と報告書3 ○ ○ (3)
生
物
と
環
境ア 生物の反応と調整 「筋収縮の実験」・刺激量と反応量の測定 3 ○ ○ イ 生物の集団 「雑草群落の観察」・種名と被度の調査
「植物群系の種類と分布」
・年平均気温と植物群落の変化
「食物連鎖」・食物連鎖における個体群の変動
「エネルギーの流れ」・生物間のエネルギー効率
「人間生活と環境」・二酸化炭素量と地球温暖化3
1 2
1 2
1 2
1 2○
○
○
○
○
○
○○
○
ウ 生物と環境に関する探究活動 ※「土壌動物の調査」
・土壌動物の種類と分布の調査と報告書作成
1 3
○
○
○
○
○※探究活動のうちの一事例を示した。
(3)コンピュータの機能を生かした授業について
○ 関連表中の「二遺伝子雑種の分離比」の指導における活用(例)
1 学習内容とコンピュータの機能の活用目的メンデルの遺伝の三法則の指導は,観察や実験を行いにくく資料学習や問題演習が主であった。
二遺伝子雑種の学習は,メンデルの三法則のうち優性の法則と分離の法則を一遺伝子雑種で指導したあとに行っている。一遺伝子雑種でつくられる配偶子の遺伝子型や表現型の分離比は,色分けしたプラスチックのブロックのモデル教材などを使って模擬的に体験させ指導している。二遺伝子雑種の学習を一遺伝子雑種のときと同じ教材で指導すると,作業が煩雑で時間もかかるため模擬的に体験させている指導例は少ない。
これらの改善策として,シミュレーション機能の活用が考えられる。シミュレーションで分離比を求めさせれば,煩雑さの解消と時間短縮が図れ,余裕をもって二遺伝子雑種の遺伝のしくみについて理解力や思考力を高めさせることができる。
2 コンピュータの機能の活用部分
配偶子の遺伝子型の種類数とその割合に応じて,それぞれ分離比の確率をシミュレートさせる。
次に,これらの配偶子をそれぞれシミュレーションで,次々とランダムに受精させ,できた雑種の遺伝子型および表現型の分離比を数値処理する。