研究紀要第87号 「基礎・基本の定義と個性の伸長に関する研究 第5年次」 -053/109page
3 基礎的・基本的な内容の定着とジェクタビリ ティについて
児童生徒一人一人に基礎的・基本的な内容を定 着させ,児童生徒の個性の伸長を図るうえで,思 考力,判断力,表現力,創造力等を重視しなけれ ばならないことは,「小学校指導書 教育課程一 般編」(文部省 平成元年6月刊)の中でも述べ られている。その重要性については,本研究の当 初から着目してきた。そして,それらの能力の総 称をジュクタビリティと名づけたのは「T研究 の概要」で述べた通りである。
本研究においては,これまでの各教科と道徳の実践研究の中にみられるように,児童生徒一人一人の「よさ」や「その子らしさ」を把握し,それを生かし,意識化させ,伸ばしていく中で,基礎的・基本的な内容の定着を図るようにしてきた。そのために,各教科や道徳の特性と児童生徒め実態に応じた学習指導過程を設定し,その各段階において,多様な学習活動を工夫し,展開してきた。このような指導が,児童生徒の量的,質的な個人差に応じる有効な手だてともなった。また,教師が指導内容とジェクタビリティとのかかわりを常に意識するようになり,指導場面において児童徒のジェクタピリティを刺激するようにした。教科等の特性により取り上げ方に違いはあるが,思考力,判断力,表現力,創造力等の能力が意図的,意識的に刺激され,相互に作用し合うことは,基礎的・基本的な内容の定着を図り,個性を伸ばす手だてとして有効であった。
しかし,ジュクタビリティの変容を客観的に評価することは,今後の研究課題であろう。
4 研究の成果
5年間にわたる「基礎・基本の定着と個性の伸 長」に関する研究成果を,次に述べる。
(1)第1年次(昭和62年度)
基礎・基本と個性に関する文献研究及び,調査のための理論研究を進め,それをもとに今後の研究の方向づけをするために調査を実施した。
その結果,基礎的・基本的な内容の定着を図るため,個別指導を取り入れた実践は広く行われているが,関心・態度面の指導や,個人差に応じた指導の困難さが浮きぼりになった。また,知識・技能面に重点をおく傾向にあり,「個性」にかかわる一人一人の見方や考え方を尊重した指導の在り方が不十分であるという現状もとらえられた。
このことから,基礎的・基本的な内容の定着を図るためには,児童生徒一人一人の個性を生かし,伸ばすことの重要性が認識された。
(2)第2年次(昭和63年度)
教科を通した実践研究を始めたが,基礎的・基 本的な内容の定着を図る過程において,児童生徒 一人一人の個性(「よさ」)に深くかかわる授業 の展開を心がけた。つまり,「よさ」が表れるよ うな教材の選択の仕方を工夫し,自分の持ち味を 十分発揮でき,自分の考えをその子らしい方法で 表現し,それが友達や教師から受け入れられてい ると感じることができるような配慮をした。
その結果,自分の「よさ」が認められたことで,学ぶことの喜びがみいだせ,学習意欲の高揚が図られた。また,「よさ」を生かした学習活動が,基礎的・基本的な内容の定着につながった。
(3)第3年次(平成元年度)
「よさ」を育てる学習指導の基本型にそって, 各段階を単元や題材の指導計画に意図的,計画的 に位置づけた。また,一人一人の「よさ」を深く みつめ,広く取り上げる指導の手だてを工夫し, 新たに試みた。
その結果,自分の活動の場があるという認識に立ち,自分が生かされていることを実感し,進んで学習に取り組む姿が生じるとともに,自他の「よい面をみていこう」とする意識が醸成された。
また,「よさ」に着目しながら多様な学習活動を 展開したことが,量的,質的な個人差に応じる有 効な手だてとなった。
(4)第4年次(平成2年度)
研究の充実のために,各教科の実践に道徳の時 間の実践を加えた。そして,「よさ」や「その子 らしさ」の把握の仕方と意識化への有効な手だて をより一層工夫した。