平成5年度 研究紀要 Vol.23 -103/162page

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ディベート学習の現状と課題


一アンケート調査と高等学校「現代社会」での実践から一

指 導 主 事 赤 塚 公 生
福島南高等学校教諭(研究協力員) 阿 部 正 春

I はじめに

  現在、ディベートを取り入れた授業が静かな注目を集めている。

 古代ギリシアにおいて「弁論術」が尊重されたことは有名であるが、日本では、伝統的に「以心伝心」といった言語化されないコミュニケーションに依存することが多く、論理的な討論はとかく敬遠されがちであった。しかし、国際化への対応は、とりも直さず自らの意思を明確に表現し、相手を説得できる能力を前提としている。それは、外交や経済交渉といった特別の場ではなく、日常生活において基本的に求められることである。

 また、生徒指導要録の評価の観点「資料活用の技能」に新しく「表現」が付加されたことは、単に資料を読み取り理解するだけではなく、魅力的にプレゼンテーションできる能力や相手の反応に的確に応えることのできる能力の育成も念頭にあるものと考えることができる。その意味でもディベート学習は、情報収集、情報処理・分析(思考・判断力)、発表力を全体的に育成することの可能な学習形態であると言えるであろう。

 ディベートの定義は、「テーマに対する賛否の立場を討論者個人の考え・信念と無関係に決めるなどし、一定のルールのもとに相手や聴衆を説得する技術を競う討論」1)とすることができる。

 川本信幹は、ディベートの成立条件として「1.ルールに従い、2.フェアに、3.議論を闘わせ、4.レフリーと審査員がそのプロセスに積極的に参加する」の四つを最も基本的なものとして挙げている 2)

しかし、現実に「教室ディベート」として授業で行われているものは、方法の細部において児童生徒の発達段階や興味・関心に応じて様々な工夫がなされており、必ずしもこれらの条件を満たしているわけではない。例えば、4.のレフリー と審査員については、児童生徒の発達段階によってはむしろ意欲を阻害することも考えられる。また、終結でディベートの勝敗を決さず、一人一人の意見の深まりを尋ねて終わるようなオープンエンド化が適した題材もあるように思われる 3)。

 そこで本論では、ディベートを、川本の挙げる基本的な条件のうち1.〜3.の条件を満たすもの、即ち「ルールに従い、フェアに、議論を闘わせるもの」として扱い、検討をすすめていきたい。

 なお、しばしば比較されるディスカッションとの際立った相違は、ディスカッションが一つのテーマに対して、全員あるいはグループで話し合うことであるのに対して、ディベートの核心には「議論を闘わせる」ことがあることである。論争の楽しみこそ、ディベートの本質の一つと考えられる。

 本論においては、実践例やアンケート調査から現状を把握し、また、今回の研究のために設定した二つのディベートの検証授業の分析を通して、問題点と今後の課題を明らかにしたい。すなわち、次の四つの視点からである。

1.本県の社会科におけるディベート学習の実践例

2.ディベート学習に対する社会科教師の意識調査

3.「『裁判』形式のディベート」の検証授業

4.「単元の導入としてのディベー一ト」の検証授業これらの分析から、「教室ディベート」の在り方と可能性について、考察をすすめたい。

II 本県の社会科におけるディベート学習の現状

1 ディベート学習の主な実践例

 本県の社会科におけるディベート学習の実践例は、必ずしも多くはないが、小学校、中学校、高等学校それぞれで試みられている。


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