平成5年度 研究紀要 Vol.23 -104/162page
小学校社会科における実践例としては、大平博康による報告 4) が挙げられる。大平は、小学校3年生を対象に、児童の関心に即した身近なテーマから、例えば「スーパーマーケットは、小売店よりよいか」(「くらしと商店街」)などを設定し、ディベートを実施している。その際、大平は、「児童の自分の考えへのこだわりを尊重して、賛否は児童本来の考えに即して選ぱさせ」、「ディベートの内容そのものを重視する立場から、勝敗はつけない」方法で実施している。
中学校社会科での実践例としては、齋藤吉成、大木修らの実践 5、6) を挙げることができる。齋藤は、日本国憲法の学習の中で、憲法第九条をめぐる「自衛隊は必要か不必要か」をテーマに、ディベートを実施している。その際、賛否の立場は、生徒本来の考え方をそのまま尊重し、人数も賛否同数としない変則的な形(必要派7名、不必要派15名、中立派(保留を含む)9名…クラスの実態そのもの)で実施している。また、終末は、勝敗を決定せず、討論を振り返って各自の最終的な意見を表明させるという、いわゆるオープンエンドで授業を閉じている。
一方、大木は、歴史学習におけるグループごとの話し合い活動の中で、生徒が歴史上の人物になってロールプレイとしてそれぞれの立場からディベートを行うことを試みている。これらは、いずれも児童生徒の実態に応じて、あえてディベートの方法の細部にはこだわらず、臨機応変に対処し実践した例である。これに対して、最も一般的なディベート形式で授業実践を行っているのは、福島東高等学校の三瓶准一である 7) 。三瓶は、一年生の「現代社会」の授業において、「外国人労働者問題を考える」というテーマで、ディベートを通常のルールに従って実践している。授業の前に、生徒たちが問題について十分に意欲を喚起するように、新聞資料や論説、ビデオなどを用いて周到な準備を行うとともに、事後の評価も新たな意欲づけになるように工夫して、効果をあげている。
安瀬一夫の報告 8) も、興味深いものである。安 瀬は、時事的関心の乏しい女子生徒を対象に、まず、ディベートの楽しさを味わわせることを目的に、「朝食は、洋風が良いか、和風が良いか」というテーマを設定してディベートをさせている。生徒本来の考え方の立場で立論者を決め、勝敗は決定せず、ディベートを通して、背景にある食文化や栄養学的問題、働く女性にとっての家事の問題などに目を向けさせようとした。
これらの実践例は、いずれも県内の様々な研究・研修会で公表されたものの一部である。全てを網羅するものでないことは言うまでもないが、これらの事例から、少なくともディベート学習に対する本県での取り組みの現状の一端を、うかがい知ることができるであろう。
2 ディベートとディスカッションに関する実態調査
それでは、本県においてディベート学習は、どの程度、授業で実施されているのだろうか。本年1月、福島市内を中心に、県北地区の中学校、高等学校の社会科(公民科)教師51名(中学校26高等学校25)にアンケート調査を実施した。
[ディスカッション] まず、ディベートとディスカッションの違いを明確にするために、伝統的な話し合い学習であるディスカッションについて、ここ3年以内の実施状況を見た。
上の図のように中学校、高等学校ともに50%前後の教師が「実施した」と答えている。しかし、「計画的に実施している」という教師は8% 程度である。おりに触れて比較的気軽に実施しているが、年間計画に位置づけているわけではない。
テーマは、特に中学校では地理、歴史、公民の三分野で広範囲に実施されており、「縄文と弥生