平成5年度 研究紀要 Vol.23 -105/162page
文化」「江戸幕府の崩壊」「自由民権」などの歴史的テーマ、地理、公民融合の「ソビエトの未来」「東北地方の発展」、現代的なテーマとしての「死刑制度」「選挙制度」「新しい人権問題」「PKO」「自衛隊」などが目についた。
高等学校では、圧倒的に「現代社会」での実施が多く、ほとんどが現代的な問題をテーマとしており、その内容も中学校と共通している。なお、テーマについては、ディスカッション、ディベートともに現代的な問題を扱っており、この点でも共通性が見られる。
実施上の問題点は、「時間がない」「発言を引き出すのが困難」「生徒が消極的で盛り上がらない」「自由に話し合う雰囲気がない」などである。
[ディペート] ディベートのここ3年以内の実施状況は、下図の通りである。中学校の実施率が高いのは、使用している「公民」教科書に明確な取り扱いがあることが、大きな要 因と考えられる。実施教科は、当然「公民」が多いが、「歴史」「地理」でも実施されている。高等学校では、「現代社会」「政治経済」が、ディ べ一トの主たる場となっている。
ディスカッションでの調査との大きな違いは、計画的に実施している比率が実践者全体から見て比較的高いことで、これは現時点でのディベート実施には、教師の主体性や意欲が大きく関わっていることと無縁ではないかも知れない。
テーマは、前述のディスカッションの場合とほぼ同じである。
[ディペートの実際] ディベートを現在実施している中学校、高等学校の教師12名に、ディベートの方法の実際について質問した。
まず、テーマ決定の手順であるが、「生徒アンケート等を実施して」生徒の関心を見極めながら実施しているのは、25%である。多くの場合、教師の問題意識とカンでテーマを設定している。
ディベートのための調査学習を授業にどのように位置づけているかについては、「夏休み、冬休みの課題学習と関連づける」16.7%、「授業の中に時間を確保」41.7%、「放課後のみ」66.7%、「生徒のその時点での知識のみでディベート」16.7%という結果だった(複数回答)。授業時間と放課後の指導を有機的に関連づけている例が多いが、長期休業を活用して予め生徒自身の問題意識を高めておく工夫も試みられている。
それでは、実践例に見られた「生徒本来の賛否を尊重して議論させるか否か」と「審査と勝敗の必要性」の二つの問題についてはどうだろうか。
「生徒本来の賛否にかかわらず議論させる」という回答は、高等学校の教師1名、8.3%にとどまった。これに対して、「生徒本来の賛否を尊重して議論させる」が、91.7%にのぼり、圧倒的多数を占めている。これは、一つは高校生段階でも、まず自分の考えを持たせることに重点を置かざるをえない現状があると教師が認識していることを示すものであろう。また背景には、ディベートのゲーム性が必ずしも十分理解されていないこと、本来の考え方と異なった立場で議論することへの、教師自身の違和感などがあることも考えられる。
「審査と勝敗の決定」については、「している」58.3%で、特に高等学校では、ほとんどの教師が審査と勝敗の決定をしていた。その理由として、「はっきりしていい」「ディベーター以外の生徒が真剣に参加する」などが挙げられている。
一方、「勝敗をつけない」という回答は中学校に多かったが、理由としては、「議論のプロセスで十分」「感情的しこりが残るときがある」「公平な審査ができない」などが挙げられていた。
全体として、ディベートを実施している回答者からは、ディベートの可能性を見極めようとする積極性が感じられ、試行錯誤を繰り返しながら定着を図る努力が行われていることがうかがわれた。