平成5年度 研究紀要 Vol.23 -106/162page
III二つの授業実践
ディベート授業の有効性を検証するため、平成5年9月と6年1月に、2種類のディベート授業を実施した。基本構想を赤塚が、具体的な細案を阿部が作成し、両者で検討して実施したものである。授業は、福島南高等学校において阿部の担当する一年生2クラスの「現代社会」で実施した。
1 「裁判」形式のディベート ディベートでは、「冒頭陳述」「反対尋問」など裁判用語が多く用いられている。これは、本質的にディベートが裁判の立論形式と近似しているためであろう。わが国におけるディベートの推進者として知られる松本道弘も、対立する論者が討論を通して真理を求める過程が裁判と似ていると指摘している。 9)
この「裁判」形式のディベートをその本質に最も忠実に活用できるのは、裁判劇のような場面を設定した場合であろうと思われる。
一例をあげると、「安楽死」の問題をテーマとするのに、実際にやむにやまれぬ場面で安楽死を実行した人物(医師、家族)を被告人として、検事側、弁護側に分かれて審理するような場面である審査員は、アメリカふうに陪審員の形をとることになるであろう。これが、あまりに生々しく感じられるなら、森鶴外の「高瀬舟」の主人公を被告人としてディベートすることも考えられるであろう。
ただ、この方法の欠点は、裁判劇に近づけば近づくほど、法律上の知見が必要とされ、高校生という発達段階にはそぐわないものになってしまうことである。審理の場面で要求されるロールプレイも、限りなく高度なものになることであろう。
そこで、今回の「『裁判』形式によるディベート」は、よりゲーム性を高めること、証人喚問における教師参加、ディベーター以外の生徒が陪審として討論に参加することの3点にねらいを絞って実施した。
(1)方法
まず、ディベートのテーマが被告席に座り(実際には、「安楽死」などと記したカードが置かれる)、検事側はその有罪を様々な根拠に基づいて立証しようとする。
それに対し、弁護側は無罪であることを検事側とは別の観点や考え方に基づいて立証しようとする。
両者の反対尋問の後、証人喚問を行い、証人席の教科担任に向かってそれぞれの立場から有利な立論やデータを引き出そうとする。(証人は、どちらの側に対しても、教科担任が行う。)
最終陳述の後、若干の休憩を取り、4,5名からなる陪審グループは、それぞれ討論を行い、票決を裁判長に報告する。
裁判長は、この審理の間、全体の進行をつかさどり、票決の結果を最後に判決として宣告して、閉審とする。
進行表 1 開廷
2 冒頭陳述(検事側→弁護側)
3 反対尋問 "
4 証人喚問 "
5 最終陳述 "
−休憩−
6 陪審グループごとによる討論
7 陪審グループごとの票決
8 判決
9 閉廷
〔メリットとデメリット〕 この方法のメリットは、次のように仮説的に考えられる。
1.ゲーム性を高めることにより、学習への意欲づけを図ることができる。
2.「証人喚問」として教師が参加することで議論を深めることができる。
3.ディベーター以外の生徒も、陪審員としてグループごとに討論に参加できる。
一方、デメリットとしては、裁判形式の煩雑さや、「賛成、反対」を「有罪、無罪」といった言葉で置き換えることの不自然さなどが、考えられるであろう。