平成5年度 研究紀要 Vol.23 -109/162page
2単元の導入としてのディベート
ディベートにおいて、立論グループが白熱した議論を展開している間、審査の生徒たちは、通常「審査カード」に記された評価の観点に従って、論旨の一貫性や発言の明瞭さ、マナー、説得力などを3段階ないし5段階評価し、気づいたことをメモしていくことになる。
これは、最後に票決する際の基礎データとなるものであり、その意味では欠かせないものでもある。しかし、そのために、審査の生徒たちが気ぜわしい細切れの時間を送っていることも確かである。審査の生徒たちが、もっとディベーターたちの議論の応酬を楽しんだり、議論を聞いて思いついた個人的な考えを深めたりできるようなディベートができないだろうか。
「単元の導入としてのディベート」は、ディベートを単元の導入に用いて、勝敗にとらわれず、ディベーター、審査の生徒たちが、ディベートの中身から問題を発見し、単元全体への学習意欲と課題意識を深めていくことを目指すものである。
(1)単元計画
このディベートのステージとなる単元は、一年「現代社会」に設定した「日本の国際化の課題」(13時間)である。
大項目 中項目 主な学習内容 日本の国際化の課題 1 国際化とは何か (3時間)
2 異文化理解の基礎 (3時間)
3 日本についての理解 (3時間)
4 日本人と日本社会の特質 (4時間)国際化の意味
日本人の国際化意識
世界諸地域の文化と文化交流
世界の生活習慣
世界の日本についての知識
世界の学校教育における日本及ぴ日本人についてのイメージ
日本人の国民性と国際化の課題
日本社会の閉鎖性と国際化の課 題(2)ディベート
「導入ディベート」のテーマとして、「外国人労働者問題を考える」を設定した。日本の国際化の問題を考えるに当たって、物、人、資本、文化など様々な観点から考察する必要があるが、外国人労働者の問題は、背景として国家間の経済格差や国際情勢の不安定さなどがあり、増加する経済難民、外国人労働者の不法就労や人権、文化摩擦、人種差別など多様な問題を提起している。
このディベートでは、資料として、西尾幹二と笠井洋が新聞紙上で行った論争10)のみを共通のものとして用いて、ディベーターへの事前の指導は、「論点表」の整理と作成のみにとどめた。また、審査の生徒たちに対しては、勝敗を決めないこと、議論から「自分にとっての問題を発見する」ことが今回のディベートの課題であることを説明し、「参加カード」を配布した。
「参加カード」は、下に見るように、1.事実関係について2.他の問題との関連3.何が大切なのかの3点について「分かったこと」「分からないこと」をディベートのあいまにそれぞれ書かせて、課題を把握させるようにした。