平成5年度 研究紀要 Vol.23 -110/162page
また、空いたスペースは自由記述のメモ欄として、ディベート終了後に、5分程度の時間をとり各自の考えたことを整理させた。
ディベートの最後に、審査の生徒たちに意見を述べさせたが、「不法就労であっても、人権や人道的見地への配慮があるべきだ」「不況だから、日本人の働き口の確保を最優先すべきだ」などの意見が出された。
また、優劣の判定をしないこともあって、生徒たちの表情にも余裕が見られた。
このディベートの内容は、日本人が普段意識していない人種、民族観、いわゆるウチとソトなどの問題に気づかせたり、他国の類似した状況、特に外国人労働者の受け入れの問題で参考になると思われるドイツのケーススタディなどに発展していくものである。
(3)「参加カード」と生徒の感想の分析
「参加カード」の記入状況については、三つの項目の「分かったこと」については、ほぼ全員が記入し、内容も妥当なものであった。しかし、課題把握や問題意識に重要な「分からなかったこと」については、「事実関係」では68.9%、「他の問題との関連」では56.3%にとどまり、記入のない生徒もそれなりに多かった。
また、自由記述Eのメモ欄は、評価のプレッシャーをかけなかったこともあり、のびのびとした記述が目立った。ちなみに、この生徒記述をABC3段階で評価すると、課題把握に優れたA評価は25.0%、平均的B評価は43.8%、やや劣るC評価は18.8%、記述なし12.4%となった。
今回のディベートについて、生徒の感想は次のような結果だった。
「楽しかったか」は、〈強く肯定とほぼ肯定〉合わせて85.4%にのぼった。同じく、「問題の把握はできたか」80.5%、「勝敗なしは良かったか」73.2%、「今回のような(形式の)ディベートをまたやりたいか」78.0%と、強くまたはほぼ肯定する者が多く、ねらいどおりの結果になった。
(数字は%) No. 項目 ● ○ △ × 1 今回のディベートは楽しかったか 17.1 68.3 12.2 2.4 2 今回のディベートで、問題の把握はできたか 12.2 68.3 17.1 2.4 3 今回のディベートの勝敗なしは良かったか 41.5 31.7 19.5 7.3 4 今回のようなディベートを、またやりたいか 31.7 46.3 17.1 4.9 (●強く肯定 ○ほぼ肯定 △やや否定 X否定)
IV 考察
〔現状〕
本論においては、まず、県内の小・中学校、高等学校のディベートの実践例を概観した。そこから導きだされる一つの結論は、各実践者が良くも悪くも児童生徒の実態に即して実際的なディベートの在り方を模索している現実である。
また、県北地区の中学校、高等学校の社会科教師を対象とするアンケート調査からは、ディベートがまだ端緒についたばかりであること、しかし実践者は、強い意欲を持って、様々な工夫をこらしていることが明らかになった。
〔授業実践と検証〕
阿部を授業者とする二つのディベートの実践からは、ディベートに取り組む生徒たちの態度や論点表、事後の作文・感想などを通して、この学習形態が生徒の関心・意欲を高め、学習への主体的な取り組みを促すものであることが検証された。
「『裁判』形式のディベート」では、ゲーム性を高めて意欲づけを図り、教師の証人としての参加によって議論を深め、審査員を陪審グループとして討論させることで参加感を高めようとした。また、「単元の導入としてのディベート」では、