平成5年度 研究紀要 Vol.23 -123/162page
「地震」教材ソフトウェアの開発
指導主事 大 室 幹 男
I はじめに
地学の学習内容には天体や気象、地層など空間的にも時間的こも規模が大きく、観察、実験ができないものが多い。地震事象もその一つで、日常生活の中で多く体験し、身近な所で大きな被害も見られているが、地震は地下から発生し、時間や場所が不規則であるため、生徒の体験的な学習を指導することは難しい。
地震事象に関する図表や映像教具はいろいろあるが、多くは教師が授業で説明や解説に用いるものであるため、それらを用いて生徒の興味・関心を高めたり、主体的な探究学習を進めるなど新しい学力観に即した授業を行うことは難しく、先生方が指導に困惑しているのが現状ではないかと思われる。
そのため、中学校・高等学校の指導書や教科書に準じ、生徒が自ら取り組めて、動きのある地震事象を模式的に見ることのできる地震教材の開発に取り組み、コンピュータを利用した地震波の伝わり方のシミュレーションや、地震データから地震波の速さを求めることができるソフトウェアを開発した。
特に、生徒の授業への参加意識を高めるため、生徒が震源地を任意に設定してシミュレーションでき、地震の伝わり方を容易にイメージできるようにした。また、学習の個別化を図るため、コンピュータ操作方法の簡素化を工夫し、すべての生徒が操作できるようにした。
このソフトを利用して地震に関する指導の効率化や能率化を図るとともに、学習の個別化を図ることによって生徒一人一人の科学的な見方・考え方を高め、知識理解を定着させていきたい。併せて、今後ますます必要とされるコンピュータの基礎操作技能の向上を図りたい。
なお、このソフトの効果や問題点を調べるため、 平成5年12月に福島市立福島第一中学校で試行授業を実施した。その結果は、地震波の描き方が速すぎるなど改善すべきものもあったが、下記のような生徒の感想を得るなどおおむね好評であった。このことを踏まえて改良を図り、各学校で活用できるソフトを開発した。
○やはり止まっているより動いている方が分かりやすく、覚えやすい。しかも、決められた場所でなく、自分で震源地を決められたりして、普通ではできないようなこともやれたので楽しかった。(生徒感想)
II 地震教材ソフトウェア開発のねらいと内容
1 ねらい
(1)「地震教材」の指導上の問題点
地震事象は「はじめに」で述べた通り観察、実験はなかなか難しい。
そのため、地震波が輪状に広がっている図表や地震計が描く地震波の図、ビデオ等の映像教材などが多くあり、それなりの教育効果を得ている。
しかし、図表等は静的で生徒のイメージ化が容易でないし、ビデオ等の映像機器を使った指導ではスイッチを入れれぱ映像はどんどん進み、生徒は眺めているだけになりがちで、生徒の興味・関心や学習意欲を高め、参加意識を持たせた主体的な探究学習を指導することは難しい。
また、市販の「地震」教材ソフトはいろいろあるが、教科書等に準じ、発達段階に即して段階的に理解させたり、生徒が主体的に関わって探究するようになっているものは少ない。
なお、試行授業校の事前アンケートの結果でも、地震に多くの興味・関心を持つ生徒は18%と低く、指導の困難さが予想されるものだった。