平成5年度 研究紀要 Vol.23 -153/162page

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事例歴  異常分娩。出生時体重3400グラム。人工栄養。哺乳量は普通。3歳時検診は、異常なし。M子は、夜遅くまで父親の帰宅を待ち、酒を飲んで遅く帰宅する父親の機嫌を取るようになった。
 学齢期になると、父親から「出て行け!」という罵声を聞かされ続ける毎日だったため、M子には「自分が登校してしまうと、母親が自分を置いて出て行ってしまうのではないか」との不安があった。2年生のときにH小学校に転校し、遊ぴ仲間もいないさぴしさの中で、担任にかけ算九九を覚えるように強要されたことをきっかけに、不登校状態となる。
 3年生から、I大分校へ通学する。1大分校では、描画を好んで行い、読む、書く、計算することを拒否していた。M子は、父親への気使いを続け、そのおかげで、姉の受けるような父親からの虐待は受けずに過ごす。
 両親の離婚後、母親・姉と三人の生活となる。その後は、そううつ症の姉への気配りがみられ、「いらいらして寝られない」ということで就寝時刻が遅く、昼夜逆転の状態が続く。現在、自律神経の調整薬とLDの薬、てんかん症をおさえる薬を服薬中である。原籍校へ再登校することについての意欲はみられない。
身体的状況  身長は普通、体重は多少多めで小太りの感じである。
性格・行動  朗らかさが感じられる。体育が好きということであるが、動作は緩慢である。
 * Y・G性格検杳の楮果(平成5年6月実施)

Y-G性格検査プロフィール
Y-G性格検査プロフィール
 B型。情緒不安定・社会的不適応、活動的、外向的でパーソナリティーの不平衡があらわれやすいタイプである。因子では、全9(攻撃的)R(のんき)が非常に高い。好奇心旺盛で陽気な面が、どちらかといえぱ、非協調的、衝動的な行動としてあらわれてしまい、社会的不適応をきたしてしまうものと考えられる。

教育の状況  知能偏差値:52(平成3年5月)
 評定:1,2年生では,3段階評定で全教科2。3,4年生では、5段階評定で全教科1。
家族の状況 父親: 建築関係の会社に勤める。酒乱であり、自分に寄りつかない長女に暴力を振るう。M子の気配りを喜ぴ,M子への虐待はしなかった。(現在は、離婚し、別居。)
母親 :不安神経症である。しかし、明るく振舞い、あけっぴろげな感じであり、深刻な表情は見せない。家庭内で子ども達の世話はするものの、どちらかといえぱ、放任的な養育態度であり、外出して様々な活動を好むタイプである。現在は、宗教団体などに入っており、頻繁に出歩きがちである。
姉:生後間もなく、酒乱の父親から虐待を受ける。父親を嫌い、ぐれたり家出をしたりする。小学校高学年のころに拒食・下痢・退行現象がひどくなる。そううつ症であり、入退院を繰り返す。
* 親子関係診断テストの結果 一M子から見た両親一(平成5年6月実施)
親子関係診断テストの結果 一M子から見た両親一
 溺愛型が危険地帯・消極的拒否型が準危険地帯にちることから両親とも欲求不満状態にあることがうかがえる。これは、人生における価値観の乏しさや経済的な理由、そしてなによりも両親の情緒不安定な状況が長期間継続されたことが、大きな要因となっているものと恩われる。それにより、M子の情緒不安やわがまま(幼児性のなごり)不規則な生活といった状況がつくり出されてきたものと考えられる。
 期待型、不安型、厳格型が極端に低く、M子の健全な育成をほとんど意識せず、どちらかといえぱ放任的な養育態度を示してきたことがうかがえる。消極的拒否型と母親の不一致型からは、母親自身に感情の統制や安定感の欠如があるものと思われる。
 両親ともに同様な判定がなされていることから、M子は、妻を受け入れない夫・夫を受け入れない妻という夫婦関係を見続け、不安感、孤独感、不満感などをつのらせてきたと考えられる。
医学検査  * HFTクラブ入級時における医師の所見
 LD(認知障害、算数・読字障害、左右障害、不器用)であり、多動傾向がある。
 WISC-R(言語性IQ105・動作性IQ119、全IQ115)。ストレスに対して敏感である。社会性、対人関係が未熟である。運動が苦手である。感情が不安定である。昼夜逆転の生活状態である。学力は、小学1年生程度であり、本人の7,8割程度のカで解決可能な課題を与えるようにしたい。援助においては、完全受容をし、褒めること。できないことには触れずにおく。学校復帰には、2,3年かかるであろう。

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