平成5年度 研究紀要 Vol.23 -154/162page
5 診断
M子は、暴力を振るう父親、不安神経症の母親、そううつ症の姉という不安定な家庭環境にあって望ましい家庭内コミュニケーションがないまま親から放任されていた。そのような家庭にあって、M子は、不安定な感情を安定させようとして母親への依存を望むが、その思いはなかなか満たされなかった。また、父親に対する献身的な配慮をすれぱ暴力を受けずにすむといった日々の苦闘を通して、自分を抑えて生活する術を身につけていったものと考える。
さらに、M子は「厳しい先生は、嫌い。学校へは行きたくない」という思いを持っている。これは母親からの十分な愛情を受けられずにいたため感情の統制ができず、厳しさに耐えうるだけの力も蓄積されず、再登校する意欲がわいてこないものであると考える。
M子にとっては、家庭内の安定が必要である。そして、M子が今までの抑圧された思いを発散し自分自身を発揮していくことができるようになることが必要である。母親へは、カウンセリングにより情緒の安定を図りながら望ましい家庭づくりに気づかせ、M子の自立を促せるようなかかわりができるように指導援助していく必要があると思われる。また、M子には、適応指導教室における温かい疑似家庭的な環境の中で、自立心を育て、自分を素直に表現できるようにかかわっていくことが必要であると考える。
M子の母親への依存が満たされ、他者との望ましい関係がつくれるような内面的な成長を遂げたとき、M子は、自信を取り戻し、現状を克服して学校復帰へ向けての意欲を沸き上がらせていくことができるのではないかと考える。
6 指導援助の方針
次のようなかかわり方をすることにより、M子は、学校復帰へ向けての意欲を沸き上がらせることができるであろう。
[本人に対して]
(1)HFTクラブでの本人の自主計画を優先し、自由に自己表現させながら抑圧している感情を発散させる。(マイプランタイム)
(2)温かい雰囲気のある疑似家庭的な中で楽しく団らんのできる場面を設定し、自由な自己表出の喜びを体験させる。(ティータイム・フレンドタイム)
(3)小集団の活動を通して存在感を味わわせたり自己決定を促したりして、肯定的な自己イメージを形成できるようにする。(HFTプランタイム)
(4)面接相談により、適応指導教室や家庭生活でのM子の気持ちを理解し、できるだけ自分を見つめさせ、学校復帰に向けて自己決定ができるようにする。(カウンセリングタイム)
[家族に対して]
(1)面接相談を通して、これまでのM子と姉への献身的な養育を認めて母親の情緒の安定を図り、M子とのかかわりをより密にしてM子の気持ちの理解と感情の安定を図っていくことの大切さに気づかせる。
(2)面接相談を通して、母親に姉の病状と昼夜逆転の家庭生活の改善を促す。
[学校に対して]
(1)面接相談や電話連絡などにより、M子の現状についての理解を図り、M子との信頼関係づくりに努めさせる。
(2)M子の学校復帰の機会を期待しながら、学級・学校の受け入れ態勢づくりに努めさせる。
7 指導援助の経過
月 主な指導援助 変容 5月
カウンセリングタイムでは、M子と信頼関係をつくり、今のM子の気持ちを理解するために、受容的に接しながら面接相談をする。
・悲観的、遠慮がちな様子は見られず、人慣れした感じで家庭での生活の様子を気軽に話してくれる。不登校状態とは思われないほど屈託のないそぷりを見せる。適応指導教室には・学校と違って勉強するよりI大分校から一緒に入1級した仲間とともに遊べて楽しいところというイメージで来所したようである。そのため、 M子は、学校の話題を避けようとする。今は、学校へは行きたくないと言う。