平成5年度 研究紀要 Vol.23 -158/162page
8 指導援助の結果と考察
[本人に関して]
M子は、学校復帰へ向けて行動を起こすまでにはなっていない。しかし、適応指導教室での活動を通して、情緒的に安定し、今の自分を見つめながら主体的な取り組みへの意欲が高まっている。このことは、下記のような生活プログラムによるかかわりがあったためであると考える。
(1)マイプランタイムにおいては、M子が、興味を持って取り組める描画を中心にした活動ができるようにした。この活動は、M子にとって抑圧された感情を発散させることができるものである。周りから認められる毎日の中で意欲が高まり、自信を持つことができるようになったと思われる。
(2)ティータイム・フレンドタイムにおいては、温かい雰囲気のある疑似家庭的な中で過ごせるようにした。適応指導教室の仲間とともに、互いを思いやりながら談笑できたことにより、M子にとって安心してすごせる時間が持てたのではないかと思われる。
(3)HFTプランタイムにおいては、小集団での活動を通して、自分だってできるんだという肯定的な自己像を形成できるようにした。互いに認め合い、励まし合える集団遊びや校外活動を通して、M子自身が自分の特性を生かすことや社会性を獲得する体験を味わうことができたと思われる。
(4)カウンセリングタイムにおいては、M子の気持ちを理解することに努め、M子が、自ら学校復帰へ向けて少しずつ自己決定できるようにした。M子は、気持ちを受容され、安心しながら自分の思いを吐き出すことにより、次の目標に向けて意欲を持って取り組もうと考え始めるようになってきたと思われる。
[家族に関して]
○ 面接相談を通して、母親の情緒の安定を図り、M子の気持ちの理解と感情の安定を図ることの大切さに気づかせようとした。母親は、M子が安心してあまえられる環境としての家庭作りが必要であることに気づきながらも、なかなかうまく動けないでいる。今後、母親の気持ちを十分に受けとめるとともに、今の養育態度の改善のために努力することの大切さと可能性について気づかせ、M子に対する母親からのきめこまやかな接触がなされるようにしていくことが必要であると考える。
[学校に関して]
○ 担任に対して、面接相談等を通してM子の現状についての理解を促し、M子との信頼関係の形成と学校の受け入れ態勢づくりが図られるようにした。家庭訪問などによる担任の積極的なかかわりがみられるとともに、M子がいつ登校しても安心してすごすことができる学級づくりがなされている。今後、M子の学校に対する気持ちを十分考慮しながら、適応指導教室で担任とM子がともに活動する機会を設定し、M子と担任との信頼関係をより深めていくようなことが必要であると考える。
VII 研究の成果と課題題
1 適応指導教室において、個人及び小集団での自主的な活動を促すとともに、本人の特性に応じてカウンセリングをしたことにより、少しずつ意欲も沸き自主的な行動がとれるようになったと思われる。一日の生活プログラムでの活動は、自分自身への信頼と他者への信頼、そして、学校復帰へ向けての意欲を感じさせてくれるものである。その意味で、生活プログラムの重要性が明らかになった。
2 自立心を中核に置いた指導援助のめやすは、本研究全体の指針となった。今後、実際の指導援助の過程での位置づけをより明確にするとともに児童生徒の実態に応じた実践を累積して、内容を精選していく必要がある。
3 学校復帰という試練を克服していけるようにするためには、担任をはじめ、学校との連携を図る上での具体的な指導援助の仕方などについて十分検討していく必要がある。
<参考文献>
「カウンセリングマインドと教育活動」 木原孝博著 ぎょうせい
「登校拒否についての相談」 松原達哉編集 ぎょうせい
「登校拒否児の理解と指導」 神保信一著 日本文化科学社