平成6年度 研究紀要 Vol.24 個人研究 -097/156page
そして,教師の適切なかかわりによって,徐々に表現意欲が高まってくるものと考える。そこで,「表現する段階」に,「表現活動の特性を生かす指導」を位置づけ,「表現意欲」を一層喚起・向上させるようにした。
さらに,新たな「表現意欲」や「応用力」「説得力」を向上させるために,相互評価・自己評価を組み合わせた評価活動を,表現する段階の最後に取り入れた。
このように,単元の学習全体を通して表現力の向上を図るように考えた。
(2) 表現活動の特性の把握と指導過程での生かし方
1) 表現活動の特性の類型化
本研究では,学習スタイルの1っの要素である児童の情意面における表現活動の特性に焦点を当てていくことにする。この特性は,学習経験などによって絶えず変動し,また,与えられた学習環境や方法などと深い関連性があり,一般化することがなかなか難しい。
しかし,先行研究などから,学習者側からアプローチした「表現活動のしやすさ」という個人差の視点に立てば,児童の傾向をある程度把握することは可能であると考えた。
このような考えから,児童の表現活動の特性を,多様にある社会科の表現活動の中から,表現で活用するメディアの種類を中心にして,次のように類型化した。なお,本研究では,表現活動にかかわる特性を中心に取り上げ,研究を進めていくことにする。
表現活動にかかわる特性
○ 新聞,吹き出しなどの文章作りを好むタイプ
○ 絵地図や絵年表作りを好むタイプ
○ OHPで表現することを好むタイプ
○ ビデオで表現することを好むタイプ
○ コンピュータで表現することを好むタイプ
○ 劇,紙芝居等で表現することを好むタイプ
○ 模型や実物作りを好むタイプ
表現活動の形態にかかわる特性
○ 一人で表現することを好むタイプ
○ グループで表現することを好むタイプ
○ 全員で表現することを好むタイプ
2) 表現活動の特性を把握する方法
児童一人一人の表現活動の特性を把握するために,次の2っの方法から総合的にとらえることにした。
(ア) アンケート調査から
下図のようなアンケート調査から,表現活動の特性の傾向を把握することにした。
アンケート
1 どんな活動が,表現しやすいですか,記号をつけてください。
(二重まる…とてもしやすい,まる…しやすい,バツ…しにくい)
(1) 新聞,ふきだしなどでまとめる ( )
(2) 絵地図,年表などでまとめる ( )
(3) OHP(TPシート)でまとめる ( )
(4) コンピュータでまとめる ( )
(5) 劇・紙しばいなどでまとめる ( )
(6) ビデオでまとめる
(7) 模型や実物でまとめる
(8) そのた( )2 あなたにとって,どの方法が表現しやすいですか,きごうをつけてください。
(1) 一人で行う ( )
(2) グループで行う ( )
(3) みんなで行う ( )
(イ) 授業の様子の観察から
児童一人一人の授業における表現方法の記録を累積し,特性の傾向の把握に努める。
3) 表現活動の特性を生かす学習指導の工夫
表現活動の特性は,変化しやすいものであるが,1つの単元に関する個々の児童の表現方法や表現形態は,表現活動の特性の調査やこれまでの授業実践の調査からある程度把握することができる。そこで,児童の表現活動の特性をいくつかに類型化し,それをふまえた表現方法や表現形態を準備し,学習計画の段階で,それらを児童の判断によって選択させていく方法をとることにした。
(3) 直接体験を取り入れた指導の在り方
ここでいう「直接体験」とは,施設,工場の見学,聞き取り調査,資料収集,録音,写真やビデオ撮影など,直接に本物と出会うことをいう。
直接体験は,具体的なイメージを伴った共感的理解ができたり,また,学習への興味・関心を喚起し,表現活動の基盤となる感受性,想像力,思考力,判断力などを高めたりすることができ,表現力を高める上でたいへん効果的であると言われている。
そこで,田中博之氏の考えを基に,指導過程の中に,学習メディアによる間接体験の後に,直接体験を意図的に取り入れることにした。これにより,表現活