平成6年度 研究紀要 Vol.24 個人研究 -112/156page
の感じ方や見方に対する驚きと共感が,生徒の造形的な思考を拡げ,深める原動力であったと言えよう。
「ワークシート1」の「やってみよう!」や「ワークシート2」の「演習2」の回答は,生徒たちの感性的な作品へのアプローチや,直観的な理解と言えるようなものを強く感じさせる。特に,「演習2」における描画は,直裁な表現で生徒の生活経験を強く反映させているものであった。このことは,描画など体験的・操作的な活動を促す手法が,生徒自身の体験に基づく感性的な作品理解を促す方策として,非常に有効であることを示すものと言える。そして,同時に,このような活動における教師からの支援の在り方を示唆するものであるとも言えよう。すなわち,教師は,生徒一人一人の感性的・直観的な視点や見方を,彼ら自身や相互に,明確に意識させることを重視して支援を行うべきであると言える。一部の回答に見られた,作品手法の表面性のみに留まる作品理解をさらに深めることも,そのような教師の働きかけによって可能になるものと思われる。
(3) 作品を見ることの楽しさを味わわせることについて
「事後アンケート」の回答からは,今回の活動の「多様な視点や見方ができる自由さ」や「互いの見方や感じ方を知ることの面白さ」,「描いたりする活動の面白さ」のなどの点が,生徒が「自分なりの見方・考え方や多様な視点で作品を見ることの楽しさ」を実感する要因であったことがわかる。「美術の鑑賞についての考えや作品の見方や味わい方が変わった」とする回答が多いことも,生徒たちの「作品を見ることの楽しさ」についての実感に基づくものであろう。
また,ワークシートの回答には,一部安易さや独断が見受けられるものの,それが「遊び感覚で取り組める」ようなワークシートや活動過程の在り方そのものにのみ起因するとは言えないように思われる。これらは主として,教師による支援の不十分さによるものであろう。むしろ,主体的な鑑賞経験の少ない生徒の指導にあたっては,「遊び感覚で取り組める」ことが,萎縮しがちな彼らの活動を活発化し,「難しい」といった鑑賞についてのイメージを変えることを可能にする要因として,重視すべきことであると思われる。
III 今後の課題
本研究の成果を踏まえ,今後は以下の視点から研究を進めたいと考える。
(1) 鑑賞活動と表現活動を一体化した「授業モデル」及び「指導計画」について
(2) コンピュータを用いたマルチメディア教材の在り方と実際について
参考文献
○ 大橋晧也「美術教育学の確立のために」
(「アートエデュケーション」VOL.1No.1,建帛社,1989年)
○ 高山正喜久,古市憲一による文章
(「新しい鑑賞指導の在り方」,岡山県図画工作授業実践の会編,開隆堂,1991年)○ 東京都図画工作研究会鑑賞教育研究委員会,「子どもの美の領土へ」 (日本文教出版株式会社,1986年)
○ 長田謙一「現代社会と美的能力」 (「教育」1988年12月号,国土社)
○ 西岡文彦「絵画の読み方」(宝島社,1992年)
○ 水田 徹「学校および美術館における鑑賞教育の研究」〜「鑑賞教育のための複製美術展」報告
(「東京学芸大学紀要」,1992年)○ 文部省「高等学校学習指導要領」,平成元年
「特集 これからの鑑賞教育」の掲載記事(「アートエデュケーション」VOL.6NO.3,建帛社,1994年)○ 「教育美術」誌(財団法人教育美術振興会)の掲載記事
○ 「DOME」誌(日本文教出版株式会社)の掲載記事
○ なお, 「ワークシート1」の「ウォーミングアップ」については,安野光雅「はじめてであうすうがくの本1」(福音館書店,1982年)掲載の図版をもとに作成した。