平成6年度 研究紀要 Vol.24 個人研究 -145/156page

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思春期の自我の成長を促す指導援助

長期研究員 高 野 成 一

研究の概要

 思春期の生徒への教育相談にあたっては,問題行動や症状にのみ目を向けるのではなく,その生徒の全人格的な発達の視点から理解を深めていく必要がある。そうした理解に基づき,自我の成長を促すように指導援助をしていくことで,問題行動や症状も軽減・解消につながると考えられる。

 そこで,思春期にある生徒への教育相談において,思春期の発達課題である「自我同一性の確立」の観点から人格的な理解を深め,自我の成長を促す指導援助の在り方を明らかにすることを目的として,本研究に取り組むこととした。

 研究にあたっては,高校生を対象とした教育相談において,自我の成長・発達の視点から生徒の内面理解を深めるよう心がけ,指導援助を積み重ねることから始めた。その結果,「自我同一性の確立」ができずに情緒的混乱を引き起こしていることが,問題行動や症状の背景として認められ,自我の成長を促す指導援助を進めることで,問題行動や症状の軽減・解消が図られることが明らかにされた。

 また,「自我同一性」の評価尺度として「REIS高校生用短縮版」を活用し,実践研究を進めた。教育相談事例では,人格形成の基盤となる部分への指導援助として,受容的なかかわりの意義が再確認されたとともに,肯定的な対人交流の体験が,自我の成長を促す指導援助として重要であることが明らかになった。

I 主題設定の理由

 教育の目的は,人格の完成を目指し,一人ひとりの子どもを,有為な社会人へと成長させていくことにあるといえよう。

 しかし,このような人格の成長・発達は,順風満帆に行われるものではない。特に「思春期」と呼ばれる時期にある中学生や高校生においては,さまざまな問題行動が発生しやすくなる。この背景には,自我の未成熟や,社会性の未発達が多く見られ,思春期の自己の在り方が大きく影響していると考えられる。

 思春期は「子ども」から「おとな」への過渡期として位置づけられ,価値観の形成や社会的役割の修得などを主体的に行い,自分らしさを作り上げていく時期である。思春期の生徒への指導援助にあたっては,このような発達段階における内面的特質を十分に理解しておくことが求められる。

 本研究においては,思春期の生徒を人格や社会性の成長・発達の視点から理解を深め,問題行動の背景や要因を把握しようとした。そのことにより,自我の成長を促し,思春期の発達課題を達成できるようにするための望ましい指導援助の方向性を明らかにしたいと考えるものである。自我の成長を促す指導援助の過程で,問題行動や症状も軽減・解消が図られていくと考えられる。

 また,このことは,単に思春期にある生徒を抱える中学校・高等学校だけの課題ではなく,思春期以前の小学校においても,思春期の発達課題を視野に入れた指導援助が必要であると思われる。

 本研究は,単に問題行動を持つ生徒への指導援助に役立つだけではなく,すべての思春期にある生徒たちを,人格や社会性の成長・発達の視点から理解を深め,自我の成長を促す指導援助の方向性を明らかにすることにも役立つものである。このような指導援助は,開発的な指導援助にもつながるものであると考え,本主題を設定した。


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