平成6年度 研究紀要 Vol.24 個人研究 -146/156page
II 研究のねらい
思春期のさまざまな問題行動を持つ生徒への指導援助においては,問題行動の要因のみを探すような理解にとどまらず,人格の成長・発達を包括的に把握することが必要である。そこで,次の3点から研究を進めていく。
1) 「自我同一性」の観点から生徒理解を深める
「自我同一性の確立」の観点から,生徒理解を深め,指導援助の方向性を明らかする。
自我の成長・発達を包括的に把握するため,その生徒の心理社会的な発達を成育歴からたどり,家庭環境,学校での交友関係,心理的特質の変遷など,幅広い資料を基に総合的な生徒理解に努める。
2) 「自我同一性」評価尺度の研究を進める
「自我同一性の確立」という発達課題の達成度を把握するために,評価尺度の研究を進める。
3) 「自我同一性」評価尺度を教育相談へ活用する
評価尺度を生徒への教育相談に活用し,効果的な指導援助に役立てるとともに,生徒の自我の成長の評価・検証にも活用する。
III 研究計画
1 「自我同一性」の観点による教育相談
(1) 研究の内容・方法
○ 自我の成長・発達の観点から,生徒理解を深める。
○ いくつかの相談事例に基づき,適切な指導援助の方向性をまとめる。
(2) 研究対象
当教育センターに相談に来所した高校生
2 「自我同一性」の評価尺度の研究
(1) 研究の内容・方法
○ すでに研究・開発されている自我同一性の評価尺度の比較検討を行う。
○ 試験的に,評価尺度を活用し,実施上の課題を明らかにする。
(2) 研究対象
県立高等学校2年生男子1学級(43名)
3 「自我同一性」評価尺度の教育相談への活用
(1) 研究の内容・方法
○ 評価尺度を用い,「自我同一性」の観点からの理解を深め,指導援助の評価・検証を行う。
○ 自我の成長・発達を促す指導援助の在り方をまとめる。
(2) 研究対象
当教育センターに相談に来所した高校生
IV 研究経過とまとめ
1 「自我同一性」の観点による教育相談
高校生への指導援助事例により,自我の成長・発達にかかわる特徴的な部分を中心にまとめる。
(1) 集団不適応女子高校生の事例
1) 問題の概要
高校1年生のA子は「集団場面で緊張する生徒」として,3学期に当教育センターに相談に訪れた。A子は,「緊張するとおならが漏れてしまう」と思い,自分の後ろに人がいる場面や生徒が集まる場面を避け,学校不適応感を強くしていた。
2) 資料
(ア) 家庭環境
○ 家族構成両親,祖父,A子,妹(中学2年)
[父] 無口だが,まじめで仕事一筋。養子のため祖父との血縁関係はない。
[母] 人づき合いが苦手。
[妹] 明るく活動的。成績優秀。
(イ) 成育歴
乳幼児期の養育の中心だった祖母は,しつけに厳しく心配症だった。そのためA子は,あまり外遊びをすることなく,交遊関係は希薄だった。 第一反抗期もなく,まじめで手のかからない 子どもだった。
小学校入学後も 交友関係は少なく ,小学校5年生以降は,仲間はずれの子と二人きりになった。その後,集団場面で緊張すると「おなかが張る」という症状が現れ始めた。中学2年生になり症状が悪化,徐々に集団生活が苦痛になり, 全校集会にも参加できない 状態となった。
高校1年生の2学期,級友とのトラブルがあり,