平成6年度 研究紀要 Vol.24 個人研究 -147/156page
以後,3学期は不登校に近い状態となっていった。
(ウ) 心理検査結果「SCT・HTPより」
中学校までは,学習能力の高さを周囲から評価され,満足感を得ていた。「泣いてばかりで弱虫」だったA子は, 家族の期待に応えることで愛惰・承認を得ることが価値規範 となっていった。そのため,自立性・自律性が育たず, 他者依存・他律性 といった傾向が培われていった。それは, 自己像を肥大化 させる結果にもなり,同時に悩む力や情緒的な発達などは,犠牲になっていったものと思われる。
進学校に入り,成績面で優位に立てない自分に直面させられ,今までの自分でいられない,期待に応えられない不安が高まる中で,以前の自分を求めて自己拡大欲求や,主観的な思い込みからの 対人的な劣等意識 を募らせて混乱していった。
いつまでも子供でいたいと願う成熟への拒否や, 16才の女の子としての役割から逃げ出したい ことから異性への変身願望も見られる。 自立や成長への不安 が強く,自信を失っている本人にとって, 「弱い本当の自分」を知られてしまうことは恐怖 となり,自分が外部に漏れ出す恐怖としての自己臭は象徴的意味を持つものと思われる。
3) 指導援助の経過
[高校1年生の3学期から春期休業中まで]
「自己臭恐怖」の訴えについては,受容し共感的理解に努めた。また,安心感を与えるため,支持的に対応し,教育相談を継続することを確認した。
面接では「おなら」のことよりこれまでの対人関係のトラブルを中心に話していった。友人については「友人が欲しい。でも何を話せばいいか分からない」と,この点が最大の悩みだと思われた。
将来についても「できれば大学に行きたいが,今は体調も悪いので,勉強にも集中できず,就職するしかない」と言う。
ここまでの面接の感想について尋ねると,「今まで相談する人もいなかったので,いろいろ話ができて気持ちが落ち着いてきた」と話してくれた。
[高校2年生の1学期]
「自己臭恐怖」については,新年度のクラス編成替えを契機に悪化したため,医療機関を紹介した。その結果, 「自己臭恐怖症」 と診断されている。医療機関での治療は一時期で終了したものの,教育センターでの面接は継続し,症状は安定し始めた。
また,担任との話し合いの機会を持ち,A子の席を後列にしてもらうなど, 環境調整 をお願いした。
その結果,学校生活では,休み時間を級友と一緒に過ごすようにするなど,適応に向けての努力をはじめた。「自己臭恐怖」の症状も軽快し,表情も明るくなってきた。
このころA子は,家族について次のように話してくれた。母親については「心配してくれている」と親近感を示していたが,父親については「あまり話したくない」と拒否的であった。
また, 両親とも人づき合いが苦手 な方で,「私は両親の悪いところばかり受け継いでいる」と, 両親を受け入れがたく感 じており, 自己否定感情 も強く持っていた。
妹については,「気が大きく社交的」と,学業面でも明るい性格の面でも 妹に劣等感 を持っていた。
[高校2年生の2学期]
進路の話題となり,「周囲は自分が大学に行くと期待して,このことが大きな負担だ」という。
そこで,「周囲からどう思われているのかが気になるようだね」と話を向けてみると,「同世代が気になる。一番気になるのは,同じ学級の人だ。できれば,1学年下でやり直したい」と言う。A子も,自分の問題は, 周囲からどう見られていいるか気にしすぎる ことにあると気づき始めた。
中学生のころは「異性に声をかけるのがうまい,かわいい,スタイルがいい,などの人」が気になる対象だった。今は「勉強ができる人」が最も気になる対象となっている。このことは「 自分の劣等感を反映している 」と言い,「中学のころは成績も良かったから,勉強ができる人がいても気にならなかった」と振り返っている。
それでも,「中学生のころは張りつめたものがあった。今は充実感もなく面白くない。毎日何をやっていいのか分からない」と訴えた。そして,「 何を