平成6年度 研究紀要 Vol.24 個人研究 -149/156page
のが「同一性(identity)(アイデンティティ)」という概念である。この「同一性」が確立されない病的な状況を「同一性拡散」と呼んでいる。
「自我同一性(ego identity)」(同一性を達成する自我の機能)とは,「自分が自分である」という明確な意識を維持している状態をさしているが,そこには,「自分が自分として生きている」という実存的な側面と「社会の何かと絆をたもっている」という社会的な側面の両方がうまく調和していなければならない。エリクソンは,「自我同一性の形成と確立」を,思春期の心理社会的課題と考えた。
多くの自我同一性尺度は,このエリクソンによって定式化された心理社会的発達課題の達成感覚を,個人がどのくらい意識しているかを測定評価しようとする質問紙検査である。
(2) 「REIS」の概要
「REIS(Rasmussen's Ego Identity Scale)」は欧米諸国で最も利用されることが多く,宮下一博(千葉大学)によって,高い信頼性・妥当性が実証されている自我同一性尺度である。
本尺度は,エリクソンの発達理論の最初の6段階[資料1参照]の心理社会的危機をどの程度解決しているかによって自我同一性を判定しようとするものである。全体は6っの下位領域について全部で67の質問項目からなっている。
また,30項目からなる高校生用の短縮版も開発されているので,本尺度が高校生への適用にあたっては,活用しやすいと思われた。[資料2参照]
[資料2:REIS高校生用短縮版]
(I〜IVは下位領域:*は反転項目)
No 領域 質問項目 1 II* 私は授業などで指されるのではないか心配である。というのは,もし,答えられないと他人が私のことをどんなふうに思うか気になるので。 2 II いったん決断したことについてくよくよ考えたりしない。 3 VI 私は,とても話やすい人間のようだし,自分でもそう思う。 4 III 何か課題をやる場合には,全体の見通しを失わないためにも,その場その場のことだけに縛られないようにやっていく。 5 II 友人の前で失敗しても,別にくよくよしない。 6 I 最終的に職業を決定したら,きっとうまく人生を乗り越えられるであろう。 7 V* 私は,将来のはっきりした目標や計画がない。偉い人の判断に従っていけば無難である。 8 III* 私は,これまで,学校のクラブ活動や生徒会活動に進んで参加する方ではなかった。 9 I* 気をつけていないと,人は弱みにつけ込もうとするだろう。 10 I 一般的に,人間は信頼できるものだ。 11 IV もし必要ならば,1っのことに注意を集中するのも難しいことではない。 12 V* 私は,人生において本当に何をしたいのか決めることができない。 13 III* 私はいつもあくせくしているが,どんなに一生懸命やっても,他の人ほどには成果があがらないように思われる。 14 VI* 人との集まりで,他の人が私の考えに同意しないのではないかと思うと,自分の意見をはっきりと主張するのにためらいを覚える。 15 VI 私には,腹を割って話し合えるような親友が一人くらいはいる。 16 V* うまく課題をやりとげた時でさえ,他の人は私のやったことを理解したり,是認をしたりしてくれないように思える。 17 VI 集団内で,私はちゅうちょすることなく,自ら正しいと思うことをはっきり表明できる。 18 III 私は家族に誇りを感じている。 19 IV* 私は1っのことに集中することができない方だ。 20 V* これまで,私の仲間は私の能力に対して正当な評価や理解を示してくれなかった。 21 VI* たとえ好意の持てる人であっても,共に活動してきた人を本当に知ることはなかったように思う。 22 IV 私は難しいことがらに挑んでいくのが好きである。というのは,それを成し遂げることによって,大きな喜びが得られるからである。 23 III* 私はいつもあくせくとして忙しいが,ともすればカラまわりばかりして,うまく前へ進んでいないように思える。 24 II 自分が他の人のようにうまくやれないということを人に悟られても,それほど気にはならない。 25 II 大体の場合,自分が決断した以上は,あとで悔やむことをしない。 26 V 将来自分が何をしたいか確信を持っており,あるはっきりした目標を持っている。 27 IV 自分がかかわったりやっていることに気を散らすことなく専念することはさほど難しいことではない。 28 I* 本当の幸せや成功につながるようなチャンスを逃してきたような気がする。 29 IV 私は,人と張り合ったりする競争する場面で,仕事やスポーツをするとき,特にそれが苦にならないし気軽に楽しむことができる。 30 I* 私は,欲しいものを手に入れるのに時間がかかり過きるならば,そのものに興味を失つてしまう方だ。