平成6年度 研究紀要 Vol.24 個人研究 -150/156page
エリクソンの理論では,8っの発達段階を示しているものの,「世代性」と「統合」については,それぞれ「成年期」「老年期」の発達課題であり,思春期の生徒への適用においては,6っの下位頷域で十分だと考えられる。
この「REIS高校生用短縮版」は,高校生の自我同一性形成を捉える比較的簡単な尺度を目指し,「REIS」から30項目を抜粋して小林・上地によって作成されたものである。この短縮版は,「REIS」本来の構造・特性を損なうものではなく,高校生の「自我同一性」を測定するのに妥当な尺度としての信頼性が実証されている。
そこで本研究では,自我同一性の評価尺度としてこの「REIS高校生用短縮版」を活用し,実証的な研究としていくこととした。
この尺度は,6っの下位領域について各5項目から構成されている。各質問項目について,それぞれ7段階で回答させ,同一性確立の程度の高い方から7〜1点で得点化したものである。下位領域の得点の合計点を自我同一性尺度とされている。
(3) 「REIS高校生用短縮版」の検討結果と考察
「REIS高校生用短縮版」の各領域および合計点について,小林・上地が兵庫県下の高校生291名(男子151名・女子140名)を対象とした調査結果(1988年)は次のとおりである。
[資料3:REIS下位領域の平均]
信頼 自律性 自主性 勤勉性 同一性 親密性 合計 21.5 21.0 20.3 22.0 22.6 22.3 129.7 本研究においても,県内の高校2年生男子43名について調査を実施している。資料数も少なく,男子だけではあるが,小林・上地の調査とほぼ同じ平均得点の結果を得ている。
また,質問項目は30項目であり,選択肢は多いものの,15分程度の短時間で実施可能であり,実施上特に問題となる点はなかった。
実施結果を見ると,教師の目からは学校生活に適応しており問題傾向が感じられない生徒の中に,この自我同一性尺度では,低い結果となっている生徒が見られた。このことから,本尺度は問題行動や症状を持つ生徒への指導援助に役立てるためだけでなく,「自我同一性の確立」の視点から援助が必要な生徒に気づき,開発的な指導援助に役立てるためにも,有効な尺度であると思われた。
ただし事例の中でうかがえた「性別同一性」の混乱など,「自我同一性」のどの部分で同一性混乱が起きているのかは明確にはなっていない。「自我同一性」を混乱の方向からとらえる尺度としては「同一性混乱尺度」などの別な尺度の方が,利用価値が高いとも考えられる。
しかしその場合,「REIS」のような発達論的視点での理解においては不十分となるので,面接において生徒本人の心理的特質などについて資料収集を十分に行ったり,他の投影法の心理検査と組み合わせたりすることで,理解を深めることが必要だと思われる。
(4) 研究のまとめ
「REIS高校生用短縮版」のような,自我同一性評価尺度は,生徒の自我の成長・発達を人格の発達理論から包括的に理解するためには極めて有効な検査であり,実施上の困難点もあまりない。
また,すべての生徒を対象に「自我同一性」の観点から生徒理解を深めることができるので,現在,問題行動や症状が表面に現れていない生徒の指導援助にも有効に活用することができると考えられる。
従来の心理検査は,どちらかというと問題行動や不適応児童生徒への治療的目的で開発されたものが多いが,本尺度は,生徒の心理社会的側面を明らかにする目的で作成されたものであり, 生徒指導の目的である大多数の健常な生徒の人格育成と精神的健康の増進といった開発的な指導援助に役立てることができる と考えられる。
しかし,このような「自我同一性評価尺度」だけでは,混乱している「自我同一性」の実態を明確に把握することは難しい。生徒理解および指導援助には,不十分な面があり,今後,基礎的なデータを幅広く収集するとともに,個々の事例による評価・検証を積み重ねていく必要があろう。