平成6年度 研究紀要 Vol.24 個人研究 -151/156page
3 「自我同一性」評価尺度の教育相談への活用
「REIS高校生用短縮版」を活用した指導援助の実際について,事例を通して考察する。
(1) 不登校男子高校生の事例
1) 問題の概要
高校1年生のB男は,高校入学後,1学期は休まず登校していたが,2学期から,時々欠席が始まった。そして,11月に遠足を欠席したのを契機に,不登校状態となった。3学期からは,進級したいという気持ちから保健室登校を始めたものの,なかなか教室には復帰することができずに,当教育センターに相談に訪れた。
2) 資料
(ア) 家庭環境
○ 家族構成 両親,姉(高校2年生),B男
[父] まじめで仕事一筋。スーパーの店長をしており,土曜日曜を休むことはない。
[母] まじめな性格で,口数も少なく,近所つき合いが苦手。
[姉] 明るく活動的。成績優秀。
(イ) 成育歴および症状の変遷
B男は,出生時,早期破水があり,仮死状態で生まれた。始語が2歳,始歩1歳6か月と 発達全般に遅れぎみ であった。
小学校低学年のころは落ち着きがなく,授業中,突然関係のないことを先生に話しかけたり,突然教室から飛び出してしまうこともあったりして, 周囲を気にしない 学校生活を送っており,よく先生に怒られていたようだ。
この落ち着きのない状態は高学年にはおさまり,同時に,周囲からどう見られているかが気になるようになった。また緊張すると吃るところがあり,そのことも気になるようになった。
中学校においては,「いじめ」とはいえないものの, 級友からからかわれること が多かった。B男自身は,そのことを嫌がってはいたが,人間関係で軋櫟を起こすことはなかった。引っ込み思案の性格や消極的な対人行動も,このころから始まっている。
B男は,運動が苦手で,中学校では部活動をやっていなかった。そのため,授業が終わるとまっすぐ帰宅し, 級友との交流もほとんどなかった。
高校入学後は,部活動にも参加するようになり,まじめに活動していた。また,部活動での対人交流も始まり,学校生活に適応しているように見えた。
しかし,夏期休業以降,時々欠席するようになり,11月の遠足を欠席したのを契機に,不登校状態となり,教育センターを訪れた。
(ウ) 性格・行動の特徴
B男は,まじめな性格で,反社会的問題行動を示す様子はまったく見られなかった。一方,対人交流は苦手であり,対人緊張が高く,学級においては孤立傾向にあった。やや吃ることも,人づき合いが苦手な原因になっていた。
3) 指導援助の経過
B男は不登校のきっかけとして,部活動のことをあげた。高等学校入学後は,運動部で活動していたが,連日の練習がやや負担になり,夏期休業中に部活動を無断で休んでしまった。このため,2学期以降は,練習にも参加しにくくなり,部活動の先輩や同級生を避けるようになった。このため,時々学校を休むようになっていった。
学校行事にも参加しにくくなり,11月の遠足を無断欠席した。以後, 周囲からどう思われているか気になる ようになり,不登校状態となっていった。
社会性の発達がやや遅れており, 対人緊張が強い ため,受容的なカウンセリングを心がけ,B男とのラポール形成に努めた。また,対人不安や対人緊張を和らげることが重要であると考え,初期の段階においては,週2回の高い割合で,面接を継続した。
B男は,劣等感が強く,自己否定的感情が強いことが,対人不安を高めている大きな要因であると考えられた。そこで,カウンセリングの中では,B男の考えに対して,受容的・肯定的に応答し, 自己肯定感を高めていく ようなかかわりを重視した。
また,言語的コミュニケーションだけでなく,将棋やオセロなどのゲームも取り入れながら,非言語的な面も含め, 人間関係を楽しむ ことに配慮した。B男も打ち解けて会話ができるようになり,表情や