平成6年度 研究紀要 Vol.24 個人研究 -152/156page

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態度から緊張感は見受けられなくなっていった。

 父親は仕事一筋の生活を続けてきたため,B男とのかかわりは薄くならざるを得なかった。しかしちょうどこの時期,交通事故により約1ケ月間,自宅での療養を余儀なくされた。このことをきっかけにB男とゆっくり話す時間が取れるようになった。

 一方,3学期中続いていた保健室登校では,養護教諭と学級担任だけでなく,教科担当者も保健室を訪れ話をしてくれるようになった。

 このことは, 人間関係のトレーニング のよい機会となったように思われ,徐々に日常的な会話もスムーズにできるようになっていった。教育相談での受容的なかかわりの中で,情緒も安定していったように感じられた。

 2年生に進級し,B男の対人不安は級友の働きかけもあり軽減され,学級内で学校生活が送れるようになった。4月当初,やや不安定なところもあったが,現在まで不登校は改善されたといえよう。

4) REISにみる変容

 「REIS高校生用短縮版」により,指導援助当初の自我同一性の状態と,学校生活に適応した後の状態とを比較た結果は[資料4]のとおりである。

[資料4 : REISにおける変容]
REISにおける変容

 全体の合計でも,94から134へと向上している。このように,自我同一性の得点が,下位領域においても向上していることが認められる。

 結果からは, 「I 信頼」「II 自律性」といった,人格形成の基盤となる部分がより改善 されている。これは,受容的なかかわりにより,B男の対人関係の中で信頼感が確立されたことによるものであると思われる。

 また, 「V 同一性」「VI 親密性」といった,思春期・青年期の発達課題に直接つながっている部分においても改善 されている。これは,保健室や教育センターにおいて,多くの大人との対人交流の体験を積んだことと,父親との人間的なふれあいの機会を持てたことが大きく影響したと考えられる。

5) 考察とまとめ

(ア) 「I 信頼」「II 自律性」について

 B男は 軽度の発達障害 があったことが疑われる。そのため,社会性が未成熟で,他人とのかかわりを視野に入れることができず,小学校低学年までは, 適切な対人関係を持てない できたようだ。

 また,両親とも仕事に忙しく,性格的にも子どもとの相互交流は乏しく,B男の 対人関係における信頼感を育てることは少なかった と思われる。

 このため,乳幼児期までの発達課題である「I 信頼」「II 自律性」において課題が十分達成されず,「自我同一性」が確立されないものと思われた。

 そのため, 受容的・肯定的 にB男にかかわるようにしたところ,情緒の安定や不安感の軽減につながり,自我の成長を促す指導援助につながったたものと考えられる。

(イ) 「V 同一性」「VI 親密性」について

 B男の自我の成長に伴い,小学校高学年からは周囲と自分を比較するようになり,社会性の未熟さから劣等感を抱き, 自己否定感情が芽生え,対人交流を避ける ようになっていったと思われる。

 さらに,中学校入学後も,適切な対人交流を持てなかったために,思春期・青年期の発達課題である「V 同一性」「VI 親密性」が達成できず,混乱を深めていったと思われる。

 今回,保健室登校で,多くの先生方と交流する機会が持てたり,教育センターにおいても人間関係を楽しむようなかかわりの中で教育相談を継続していったり,同性の親である父親との交流ができたりしたことが大きく役立ったものである。このことは適切な対人交流が「自我同一性」の発達課題を達成するために欠かせないものであることを示している。


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