平成6年度 研究紀要 Vol.24 個人研究 -153/156page
(2) 盗癖女子高校生の事例
1) 問題の概要
高校1年生のC子は,1学期の5月ごろから,教室内で同級生の財布からお金を抜き取るようになった。その後,職員室で教員のお金を盗んだことで,C子の行為が明らかになった。
また,盗み以外にも,同級生に対して嫌がらせの手紙を送りつけていたことなども明らかとなり,問題の深刻さから当教育センターに相談に訪れた。
2) 資料
(ア) 家庭環境
○ 家族構成 両親,C子,弟(中学校2年生)
[父] 現在は単身赴任中で,月に一度くらいしか帰宅しない。自分から話をすることはなく,ほとんど感情を表に表さない。
[母] 仕事には熱心で,C子のことも心配しているが,面接では冷静である。
○ 夫婦関係 夫婦仲は悪く,離婚寸前まで話が進んだこともある。C子の強い反対で現在は,表面的には落ち着いている。
(イ) 成育歴および問題行動の変遷
幼児期から 第一反抗期もなく,素直で手がかからない 子どもだった。小学校ではあまり交友関係は多くなかったが,中学校入学後からは友人が増え,表面的には楽しく学校生活を送っていた。
しかし,中学3年生になり,両親の夫婦げんか日常的となってから家の中が冷たい雰囲気となり,情緒不安定となっていった。また学校においては,無理に友人に合わせている自分を感じるようになり,学校生活を負担に感じ始めていた。
高校入学後は,「新しい友人もでき,毎日が楽しい」と言いながらも,教室内での窃盗や,級友に対する嫌がらせなどの問題行動が始まった。
3) 指導援助の経過
面接では,自分の窃盗や嫌がらせなどの行為を認め,反省はしているものの,詳細にすべてを話すことには口が重かった。
一方,親の夫婦関係や家庭の雰囲気・親への不満などは,隠すことなく涙ぐみながら話していった。
「REIS」の実施結果は次のとおりである。
全体的な総得点は高いものの,「II 自律性」をはじめ,人格形成の基盤となる部分が,低い結果となっている。 「自律性」は自己制御力 につながるものであり,常識の範囲を逸脱した今回の問題行動の要因を示すものである。
この「自律性」が低くなっているのは, 自分に対する肯定的な体験が少なく,劣等感情を強く持っている ことを示すものである。夫婦関係の弱さや,親のC子への情緒的なかかわりが不足していることが「自律性」の低さの背景にあることがうかがえた。
そこで,訓育的な指導やアドバイスなどをすることよりも 人格の基盤となる部分への働きかけ が必要であると考え,受容的・肯定的な対応を心がけた。
面接の中では,徐々に自分の行動に対する洞察を深め,「自分は不幸なのに,幸せそうに生活している人が憎かった」と話すようになった。同時に,問題行動は消失していった。
4) 考察とまとめ
C子の場合,「REIS」全体の結果からは「自我同一性の確立」が達成されているようにも受け取れる。しかし,「II 自律性」などの人格の基盤となる課題が十分に達成されているとは言えない。
これらのことから,C子は,家庭の中の殺伐とした人間関係に耐え切れず,中学校以降の学校生活では,勉強に頑張ったり,無理に明るく交友関係を作っていたりしてきており,それらが「勤勉性」「同一性」を高める結果となっていったと思われる。
C子自身もそんな無理をしている自分に気がつき始めていた。同時に,現実の行動と自分の内面との