平成6年度 研究紀要 Vol.24 個人研究 -154/156page

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隔たりから,情緒的混乱を深め,自分の行動をコントロールすることができず,問題行動を繰り返していたものと考えられる。

  「自律性」は,自分に対する信頼感の基本的な現れ である。実際C子は,規範逸脱傾向は見られず,表面上は物事の善悪を理解している生徒だった。

 事例でも, 「自己肯定感」を育てるかかわり が,C子にとって,自我の成長を促す指導援助へとなり問題行動が消失していったものと考えられる。

(3) 研究のまとめ

 他の事例も含め,人格の発達と指導援助の関連において,次の2点が研究成果としてまとめられる。

1) 受容的な対応が人格の基盤への援助に役立つ

 教育相談においては,受容的・肯定的なかかわりが重要であるといわれている。このような指導援助が,「自分と他人への信頼感」「自己肯定感」につながり,自我同一性尺度で見れば,特に,人格形成の基盤となる「I 信頼」「II 自律性」を回復させるのに役立ったと考えられる。

対人交流が自我の成長を促す役割を果たす

 「自我同一性の確立」のためには,社会的な対人関係の体験が不可欠であることは明らかである。

 中学校までに円滑な対人関係を体験できなかったことが,「自我同一性の確立」が達成できなかったことに大きく影響したものと考えられる。

 そこで,指導援助者が,まずは生徒の内面に配慮しながら心的交流を図っていくことで,自我の成長・発達を促していくことが必要だと考えられる。

V 研究の成果と今後の課題

1 研究の成果

 本研究により,思春期の生徒への指導援助においては,現象面にのみ目を向けるのではなく,自我の成長・発達の観点から全人格的な理解を深めることが必要であり,効果的な指導援助につながることが確認できた。

 また,自我同一性評価尺度の活用は,生徒理解を深めるのにに役立つともに,指導援助の方向性をより明らかにすることや,指導援助の有効性について評価・検証することにも活用できた。

 本研究主題である「自我の成長を促す指導援助」については,自我同一性の下位領域の達成度にも影響されるが,次の2点が重要だと考えられた。

1) 受容的・肯定的なかかわりにより,人格形成の基盤に目を向けて指導援助を行うこと

2) 肯定的な対人交流の体験の場を与えること

2 今後の課題

 今後本研究をさらに深め,個々の事例について,自我同一性の下位領域と,問題行動との関連について,十分検討を加えることが必要である。

 このような指導援助は,問題行動を持つ生徒だけでなく,多くの思春期の生徒に必要な指導援助につながるものであり,本研究を継続することで,開発的指導援助の在り方を明らかにしていきたい。

参考文献・資料

自己形成の心理学 青年期のアイデンティティとその障害 川島書店
自己意識の心理学 東京大学出版会
アイデンテイテイ 日本評論社
自我同一性研究の展望 ナカニシヤ出版
教育心理学研究35
 Rasmussenの自我同一性尺度の日本語版の検討
宮下一博
日本教育心理学会第31回大会発表論文集
 Rasmussenの自我同一性尺度の高校生用短縮版作成の試み
小林宏・上地安昭


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