平成8年度 研究紀要 Vol.26 個人研究 -107/175page
書く力を育てる指導の工夫
〜Response Writing〜
長期研究員 畑 中 豊
研究の要旨 「書くこと」の指導においては,「和文英訳」に代表されるような形式中心のアプローチへの反省から,(1)書き手重視,(2)内容重視,(3)読み手重視という新しい動きが生まれてきている。 その代表的な指導法として,プロセス・ライティング(Process Writing),パラグラフ・ライティング(Paragraph Writing)などを挙げることができるが,これらに関する研究のほとんどが高校生や大学生を対象に行われており,中学生を対象に行われた研究はきわめて少ないのが現状である。 中学校における「書くこと」の指導は,はとんどが語い指導,和文英訳等に費やされ,学習指導要領にある「書くこと」の目標を十分達しているとは言えない。そこで,最近の「書くこと」の指導の流れを,中学生,すなわち初級学習者に適応する指導法の一つの在り方として,レスポンス・ライティング(Response Writing)を考慮した,自由作文の一形態であるこの活動を取り入れ,これを継続して行った結果次のようなことが明らかになった。 1. 生徒は,自分の思っていることや考えていることを自由に書くことにより,書こうとする意欲が高まり,継続してこの活動に取り組むことで,まとまった量の文章が書けるようになった。 2. この活動は,「書くこと」の領域が単独で扱われるのではなく,「聞いて」書き,また,書いた内容について「話す」など,他の領域と組み合わせた統合的(integrated)活動が行いやすく,コミュニケーション能力を育てるのに適した手法である。 3. ○か×か的な評価が中心となる和文英訳と違い,この活動において生徒が書いた文章にはさまざまな種類の誤りが含まれる。その誤りこそふだんの教師の指導の鏡であり,次なる指導の手がかりの貴重な宝庫となる。 I 研究の動機
日常の授業で展開される様々な言語活動に「本物らしさ」(authenticity)が求められている。すなわち,ふだんの生活におけるコミュニケーション場面でも実施されるような活動に近づけようというのである。
「書くこと」の活動を考えてみよう。Authenticな活動と言えば,メモ,日記,エッセイ,あるいは小説など意味・内容のある文や文章を創作することをすぐさま連想するであろう。しかし,英語の授業で「書くこと」と言うと,和文英訳など「決められた内容のものを正確に再現する」ことをイメージする教師が多いのではないだろうか。
中学校という外国語学習の入門期においては,文法事項や文型などの言語材料の定着を図るために,書く練習が単文レベルの「和文英訳」という形で行われることが多い。コミュニケーション能力育成のステップとしては大切な活動であるが,文の正確さなどの言語面にばかり気を取られていると,生徒に書く楽しみやコミュニケーションをする喜びを味わわせることはできないであろう。
学習指導要領の改訂に伴う,オーラル重視の流れの中,「読むこと」と「書くこと」の能力を育てることも並行して進めていかなければならない課題である。特に「書くこと」については,苦手意識を持