平成8年度 研究紀要 Vol.26 個人研究 -150/175page

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マップに記入された言葉数の学級平均は事前28.8事後107.9であった。前頁のように,事前の内容はそれぞれの生活経験などから 「博多−ラーメン」 のように記入された個性的なものが多く,当然本単元の学習内容とのかかわりは薄かった。一方事後の内容は幅広く単元の学習内容が記入され,しかも既習の歴史的,地理的内容とも結びついて 「九州一北九州工業地帯−八幡製鉄所−宮営工場−明治維新−明治天皇−五箇条の御誓文」 のようにイメージの拡がりを感じさせるものが多かった。これは,生徒一人ひとりが「学んで得た力」も身に付けたことを示すものであり,授業の中でそれぞれに自己存在感を味わわせ『学ぼうとする力』を高めようとしたネームプレートの活用がその一翼を担ったものであると考える。

V おわりに

本研究では,授業の中に教育相談の姿勢を生かすことで「学ぼうとする力」を高めることをねらい,子ども一人ひとりのネームプレートを用いる授業の実践を試みてきた。これは,ネームプレートを媒介として教師と子ども一人ひとりとの相互の交流を深めようとするものでもあった。実践の結果,ネームプレートを活用しようと教師が意識することによって,子どもが活躍する場や機会が増え,多くの子どもが授業の中で自己存在感を味わい「学ぼうとする力」を高めたことが分かった。

教科の特質をふまえた授業で,子どもに知識や技能を身につけさせることは大切である。そのためにも,教師は子ども一人ひとりの内面に目を向けたかかわりを基盤として「学ぼうとする力」を高める授業を心がけていきたいと考える。

最後に,教師と子どもとのかかわりに目を向けたとき,教室の言語空間の現状と今後の指針を示した一文があるので紹介したい。

「(教師と子どもの関係についての記述)…具体的な個(教師)と個(子ども)の関係,私とあなたの関係は,もちろん結ばれない。このような教室の中では,生活とは関わりの薄い,抽象化された知識のみが一方的に流されていくことになる。(中略)教室を,生きた子どもの心に響くことばが語られる場にかえていかなければならない。そのためには教師と子どもとの個のつながりをつくることから始めなくてはなるまい。個人名を冠した教師と,個人名を冠した生徒が一人称で語るとき,教室の言語空間は,子どもにとって具体的になり,そこで語られることばは自分と深く関わりをもつようになる。…」(内田伸子「ことばと学び」P.P.13−14金子書房1996,( )は齋藤)

ここには,「ことば」を例にして教師と子どもが個と個のつながりを深めていくことの大切さが指摘されていると考える。本研究の取り組みはあまりにささやかではあるが,今回取り上げたネームプレートの活用が,教師と子どもが個と個の関係を結ぶきっかけになるかもしれないと考える。そして,教師と子どもの関係をより深めていくことができれば望外の喜びである。

こうした期待を抱きながら,今後,一人ひとりが自己存在感を味わうことで高めた『学ぼうとする力』をもとに,子どもが自ら学習内容をさらにふくらませていくことができるような授業づくりを探っていきたい。

* 授業実践では二本松市立二本桧第一中学校の須賀紀一校長先生ならびに授業者の渡邊健順先生にたいへんお世話になりました。ここに記して感謝申し上げます。

【参考文献】

・全国教育研究所連盟編「新しい生徒指導の視座」 ぎょうせい
・小泉英二編著「学校教育相談・初級講座」 学事出版
・尾崎勝・西君子共著「授業に生きるカウセリング・マインド」 教育出版
・佐伯・汐見・佐藤編「学校の再生をめざして」全3巻 東京大学出版会

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