研究紀要第109号 「「生きる力」としての「学力」を育てる学校教育の創造」 -003/166page
第Iは,いじめや登校拒否の問題である。この問題は学校教育の在り方そのものを間うものであるとともに,学校・家庭・地域社会それぞれの要因が複雑に絡み合っており,社会問題にもなっている。
第2は,深刻な校内暴カの問題である。校内暴カは数年前から急増しており,対教師暴カも平成8年度,中学校では前年度の1.5倍,高校でも1.3倍に達している。最近では学校内における殺人事件まで発生しており,子どもたちの不安やストレスとそれらが誘引と思われる突発的な暴カ事件は,特異なケースではすまされない状況になってきている。
第3は,過度の受験競争の問題である。塾通いの増加や受験競争の低年齢化に象徴されるように,多くの子どもたちや親を巻き込んでの,幼稚園から大学に至るまでの受験競争は激化の一途である。これが第l,第2の問題と密接に関係していることは言うまでもない。
これが、「生きるカ」を問題にする第2の背景である。
3 これからの先行き不透明な社会
これからの社会は,変化の激しい先行き不透明な厳しい時代になると予測することができる。
特に,経済,社会,文化の面で国際交流が進展し国際的な相互依存関係がますます深まっていくと考えられ,マルチメディア時代という言葉にも代表されるように,溢れる,情報が飛び交う高度情報化社会が実現する。また,科学技術もさらに高度化、細分化,専門化の方向に加速し,地球環境問題やエネルギー資源の問題など人類の生存を脅かす問題も生じてきている。さらに,少子・高齢化社会にかかわる問題も,いっそう深刻になってくると思われる。
これが,「生きるカ」を問題にする第3の背景である。
III 研究の概要
1 学校教育の今日的課題と「生きるカ」
学校教育における今日的課題には,先に述べたように,まず,子どもたちの生活の現状が急変してきているという問題がある。ゆとりのない生活,他者とのかかわりの少ない生活,体験不足の生活,そして,倫理観の希薄な生活など,子どもたちの生活の現状は,これまでの学校教育を繰り返していたのでは,もはや問題解決は望めない様相を帯びてきている。
そこで「生きるカ」を取り上げるわけであるが,では,「生きるカ」とは何か,そして,「生きるカ」はどのようにして育まれるのか,そうした視点から,研究課題のキーワードである「生きるカ」を明らかにしていきたい。
(1)「生きるカ」とは
「生きるカ」は「生得(生まれながらに持っている)のカ(2)」であると,坂井正久氏が述べているように,確かに人間は生まれながらにして「生きるカ」を体の中に備えている。しかし,人間として生きるということは、生物学的に生命を維持していくだけのことではない。ヒトはヒトとして生まれるが,ヒトは人間として生きていくことに価値があり,意味があるのである。これは,人間が生きるということにおいて最も大切なことであり,「生きるカ」とは「人間として意味深く生きるカ」であるということもできる。意味深く生きるということは,また,自己実現を目指すということでもある。自分は人間としてこうありたいと願い,そのために自らを望ましい方向に導いていくことこそ,人間として意味深く生きることであると考える。
「生きるカ」を,高久清吉氏は「erleben(エアレーべン)(3)」,体験するという言葉を用いて生きているという実感や充実感が伴う生きざまであるとしている。生きている実感や充実感が伴わなけ