研究紀要第109号 「「生きる力」としての「学力」を育てる学校教育の創造」 -005/166page
3)「共に生きるカ」(自己実現)「生きようとするカ」や「活かすカ」は,子ども― 人―人が「人間として意味深く生きていくカ」の要 素として極めて大切であるが,これが自己中心的な, 排他的な姿勢で生きている場合には,多くの問題の 要因になることが多い。「生きるカ」の要素として, 最も重視しなければならないのは,「共に生きるカ」 である。
研究課題設定の背景においても繰り返し述べてき た「子どもたちの生活の現状」にかかる問題の多く は,この「共に生きるカ」の弱さに起因していると 考えることができる。少子化や群れ遊びの減少,家 庭における―人遊びの時間の増加など,子どたちが 他との摩擦の少ない環境に置かれていることは,人 間関係をつくる方を弱めていると考えることができ る。「共に生きるカ」は,人間関係をつくる力であ り,「生きるカ」の内容としておさえた「自己実現」 は,「共に生きるカ」の育成の問題として考えてい きたい。学校は,その集団で学習することの特色を 生かして「共に生きるカ」を育む教育を,学校の全 教育活動を通して積極的に推進していかなければな らない。
以上,学校教育の中で育てなければならない「生 きるカ」に関する3つの要素を述べてきたが,これ らは,個々に育てられるものではなく,相補的・総 合的に育てていかなければならないと考える。
(3)「生きるカ」としての「学カ」を育てる
「生きるカ」を育てることは,子どもたち―人一人が「生きる目標(生きがい)」を持ち,「自己改革」の方法を学び,「自己実現」の充実を味わえるようにすることである。これを先の「生きるカ」の要素と結びっければ,右上の図のようになる。
つまり,生きる目標を持たせるための「生きようとするカ」,自己を改革するための「活かすカ」,自己実現のための「共に生きるカ」であると考えることができる。
さて,この研究では,サブ・テーマにも表現しているように「生きるカ」としての「学カ」を育てる主たる場を「授業」に限定している。
授業の中で「生きるカ」としての「問題解決カ」,「豊かな人間性」,「健康や体カ」を総合的に育てることを次のように考えてみる。
例えば,「生きるカ」としての「問題解決カ」を育てる場合,まず配慮すべきことは,子どもの意欲を大切にすることである。
生きようとする力を突き動かすのは,生きる目標(生きがい)であると先に述べた。これは子どもたを学習に突き動かす力でもある。この意欲をもって学習に取り組む体験を繰り返すことによって,子どもたちには,目標を持っことの大切さやそのために努力することの意味が理解されてくる。
従って,教師は,これまで以上に子ども―人―人の学習二―ズの把握に努めるとともに,子どもたちにとって魅力のある教材の開発にも方を注ぐことが大切であり,子どもたちが問題解決に生き生きと取り組むための基盤としての学級の人間関係にも十分留意し共に学ぶことで感動が得られるような学習活動を工夫していくことが必要になってくるのである。
子どもたちにとっての生きる目標(生きがい)は,学校への「行きがい」でもある。学校で過ごす時間のほとんどが授業であれば,授業に何かしら子どもたちを魅き付けるものがなければ,学校への「行きがい」は半減してしまうに違いない。 子どもたちの学校への「行きがい」となるような