研究紀要第109号 「「生きる力」としての「学力」を育てる学校教育の創造」 -006/166page

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魅力ある授業を創ることは,これまでの授業を「学 習しがい」のある授業へと改造することでもある。

さて,ほとんどの子どもは「わかりたい」「でき るようになりたい」「進んで学習に取り組みたい」 と思っている。しかし,その関心や意欲が時に萎え てしまうのは,自カ解決の方法がわからないという こと,自カ解決の訓練が不十分であることに起因し ているからではないだろうか。

子どもたちが,「生きる目標(生きがい)」を持 ち続けるためには,忍耐強く問題を追究し続けるカ が必要である。それは既知を土台に未知を拓く力で あると言うこともできる。これまで,たったlつの 正しい答えを求めて,たったlつの正い、方法で学 習してきたという反省がある。しかも,時には,そ のたった1つの正い、答えや方法を覚えるという学 習をすることもあったのではないだろうか。つまり 「知識を教え込む教育」の反省である。これを「自 ら学び,自ら考える教育」へと転換するためには, 基礎・基本の徹底を基盤にした「学び方」の指導を 重視し,「活かすカ」を育てていくことが必要であ る。

従って,教師は,これまで以上に計画的・継続的 に「学び方」を指導していかなければならない。そ のためには,子どもたちの「学び方」の育ちを見取 るとともに,身に付いた学び方が活かされる場面を 授業の中に意図的に位置づけていく必要がある。

子どもたちは,既有,既習の「知識・理解」をも とにした,自ら獲得した「学び方」での問題解決を 数多く体験することにより,困難や障害を自らの智 恵で乗り切る方を身に付けていくことができるので ある。

「問題解決方を育てる」ことは,「生きるカ」と しての「学カ」を育てるための1つの視点である。 その視点からの取り組みは,子どもの「生きる目標 (生きがい)」を大切にすることであり,「活かすカ」 を育てることであると述べてきた。それは,要約す れば,子ども―人―人の意欲を大切にし,子ども自 らが自らの方法で問題解決する場面のある授業を創 ることである。

しかし,「生きるカ」を「人間として意味深く生きるカ」であると前述しているように,いかに意欲的に取り組もうと,いかに学び方が洗練され習熟されたとしても,それが利己的,排他的な学習であっては,先行き不透明な変化の激しい時代にもなお,人間としての誇りをもって,人間として意味深く生きるカは育たないと思うのである。

ここに「共に生きるカ」を重視する所以がある。 研究課題設定の背景でも述べたような,いじめや登校拒否,校内暴カといった問題は,たった1つの正しい答えに,たった1つの正い、方法で迫り着く:競争に起因していると考えることもできる。

学校は,小さな社会であり,そこで子どもたちは,他と活動しながら,自他の痛みや思いやりを体験的に学習していく。また,学校は,自他の違いやそれぞれの特性を学習する場でもある。つまり,学校では,集団の中で共に学び合い,共に認め合い,共に高め合うことを,子どもたちに「体験」させていかなければならないのである。

従って,教師は―人―入の学習意欲の喚起や学び方の指導に方を注ぐと共に,子ども―人―人の「心」をじっくりと見つめ,教師と子ども,子ども同士の望ましい人間関係づくりができるような授業を創っていかなければならない。子ども―人―人のよさを積極的に認め,子どもの可能性を十分に引き出そうとする授業が,自他のよさや自他の可能性を大事にする学級を育てることは言うまでもない。

こうした学級の中にあってこそ,自己実現は図られるのである。

以上,「問題解決カ」に限って, 「生きるカ」としての「学カ」を考えてきたが,このことは,「生きるカ」としての「豊かな人間性」や「生きるカ」としての「健康や体カ」を育てる場合にも共通しており,三者は相補的な関係にある。

「生きるカ」を授業の中で育てる場合のポイントとして,国立教育研究所の中野重人氏は「やる気」「自分で考える」「他と共に」の3つを上げて説明している(5)が,このことは,先に述べた「生きるカ」としての「問題解決カ」「豊かな人間性」「健康や


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