研究紀要第109号 「「生きる力」としての「学力」を育てる学校教育の創造」 -008/166page
(2)教材の改造
授業は,教師と子どもとその間の教材という3つの要素で成り立っている。「授業の改造」は,この3つの要素の改造でもある。先に述べた「教師の改造」と後に述べる「学級の改造」,そして,ここで述べる「教材の改造」である。
教材は教科書にはじまり,文章資料,統計資料,写真などのほか,テレビ,VTR, コンピュータソフ トなど様々であるが,授業の改造を目指すとき,これ らの「生きるカ」を育てる教材としての適切性を問い 直さなければならない。
たとえば,この複雑化する社会に生きていくにはそれに応え得る能方を育成することが大事であり,それには,自ら考え,自ら学ぶようにする学習を重視すべきであることを繰り返し述べてきたが,これまでの授業で取り上げられてきた教材はlつであることが多く,全ての子どもに共通に与えられた教材での学習が複雑化,多様化に対応した教育を疎外してきたのではないかという指摘がある。また,たった1つの正しい解答にじか帰結しないような教材が創造性や個性を萎えさせてきているという指摘もあり,従来の共通教材に基づく問題解決学習を「定食を味わう教育」であると反省する意見もある。
こうした教材に関する指摘は,これからの教材の在り方を考えるうえで大変参考になるものである。
次に,教材改造のためのいくつかの視点を述べてみる。
・教材は,子どもが主役の学習づくりを可能に するものであるか。
・教材は,子どもが自ら学習する経験の位置づ けを可能にするものであるか。
・教材は,子どもが成功感を味わうことを可能にするものであるか。
・教材は,子どもが選択する機会を持つことを可能にするものであるか。こうした視点からの見直しが,これからの教材の在り方を示してくれると考えている。本来ならば,あらゆる教材にっいて吟味,検討すべきところであるが,研究課題設定の背景でも述べてきた「社会の変化に対応する教育」を目指す観点から,ここでは教材を「情報リテラシー」,つまり「情報」という側面に限定して研究したいと考えている。
(3)学級の改造
「学級の改造」は,授業を行う舞台としての学級の人間関係を見直す視点である。子どもたちの生活の現状やいじめ,登校拒否,校内暴カといった問題が「生きるカ」を研究課題とした背景の1つであることを述べてきたが,これらの問題にどう取り組むかを考えることなしに授業の改造を望むことはできない。
学級の人間関係,つまり,子どもと子ども,教師と子ども,あるいは子どもと学級集団など,授業を共にする人間関係は,授業に大きな影響を及ぼす。
いじめが学校への魅力を消滅させ,学校や教師への不信感を募らせることはよく知られていることであり,友だちを恐れたり,友だちに怯えたり,自信を失ったり,自己嫌悪に陥ったりすることもある。そして,それが登校拒否の要因になることもある。
人間関係づくりがうまくいかないため,子どもは孤立したり,群れたりする。時に,その人間関係づくりができないストレスが暴カという形で表出することもある。
こうした悩みを抱えた子どもやその集団にとって学級は決して楽しいものではなく,その学級担任でさえ,暗く重苦しい日々を送らなければならないこともある。
こうした状況の中では,「生きる目標」を確かめ