研究紀要第112号 「基礎学力向上のための授業改善に関する研究」 -060/166page
3 結果と考察
素朴概念の変容
下の表は,例としてあげた砂糖水の濃さについての素朴概念の調査で,児童が単元学習前(事前)に選んだ選択肢が,授業後と単元学習後(事後)でどのように変化したかをまとめたものである。丸数字は児童番号,ア〜キは2(1)の調査用紙の選択肢符号,網掛けは正答(イ)を選んだ児童を示している。さらに,右端のA〜Dのアルファべットは,次の4つのタイプを表している。
A:単元を通して同―番号を選んだ者
B:授業後に選択番号を変更,事後も授業後と同じ番号を選んだ者
C:事前と授業後とが同じ選択番号,事後に選択番号を変更した者
D:事前,授業後,事後にそれぞれ異なる選択番号を選んだ者事前も授業後も同―番号を選択した児童(タイプAとタイプC,計6人)のうちタイプAは,話し合い活動により自分の考えを友達の考えと比較して強化している。しかしタイプCは,話し合い活動により自分の考えを友達と比較したが,自分の考えを変更するまでには至らなかったと考えられる。
また,事前と授業後で異なる番号を選択した児童(タイプBとタイプD,計28人)は,話し合い活動により自分の考えを友達と比較し,構成し直して選択肢を変更した者で,素朴概念が変容した児童と考えられる。
授業後に正答選択肢(イ)に至った児童は,34名中19名56%)であるが,事後では3人の児童を除いた33名は,正答選択肢を選んでいる。これは,「とける」ことについては,単元の導入時に学習を行ったため,その内容を表面的にしか理解していなかったのが,溶解限度,質量の保存,物質の保存といった学習を進めるにつれて水溶液についての理解が深まり,自分の考えをより正しい概念へ再構成したためと考えられる。
児童が選んだ選択肢の推移の表から,生活経験から形成された見方や考え方は,1単位時間の授業では正い、科学的概念に容易に修正されないものもあり,単元全体をとおして系統的に指導していく必要があることがわかった。また,素朴概念の変容をこのようにまとめることばより,個々の変容の過程がよくわかり,個への支援の手がかりになり,今後の指導の参考にすることができた。