研究紀要第112号 「基礎学力向上のための授業改善に関する研究」 -085/166page
研究の考察
○事象との出会いと思考活動
実践1では,「ものがとける」という現象について,児童の理解の仕方を予め調査した結果,自分なりの考えを素朴概念としてもっていることがわかった。それを基に素朴概念の異なる児童同士でグループをつくって話し合いをさせるという形で授業を進めた。自分とは違った考えをもった友達がいるという事実がより思考を促すことにっながった。また,素朴概念をもった児童が正しい、科学概念に至るまではある程度の時間がかかるということもわかった。実践2では,直接調べることが難しい地震の学習で,波の伝わり方を目で見ることができるモデル教材を使った。モデルを使った観察,実験によって地震波の伝わり方がイメージでき,地震の大きさや伝わり方の規則性を考えるのに役立った。
事象とどのような出会い方をするかは,以後の学習意欲や思考活動と強くかかわっていくので,事象や教材の提示の仕方は,児童生徒の反応を予想しながら,よく考えて行う必要がある。
○表現,操作,作業などの活動と思考活動
実践2では,授業の中に「話し合う」「図やグラフをかく」「発表する」など,自分で表現する活動をできるだけたくさん取り入れた。データが示すように,表現活動をさせることは思考活動を活発にするという点からも効果的であることがわかった。これは,自分で何かを表現するためには思考することが必要であり,また,他者からの反応によっても,思考が促されるからである。実践5では,直接体験のできない地球の歴史の学習で,化石モデルの製作と,「古生代ワールドをつくろう」という作業活動を取り入れた。実践6では,蛍光灯の仕組みと働きを理解させるために,電気の流れが視覚的にとらえられ,また,自分で操作できる教材を作り,活用した。どちらの実践も,試行錯誤を繰り返しながらも,楽しみながら取り組めた。作業や操作を通して興味・関心が高まり,思考活動が活発になったことが調査からわかった。
「さあ,考えてみましょう」と,児童生徒に声をかけただけでは,なかなか考えようとはしない。自分で問題を解決したいという気持ちが高まっていなければ,思考へとは進まない。そのような場合でも,書く,描く,作るなど,思考が伴う行動場面を設定すると効果がある。
○ 思考活動の個人差に応じた支援
実践1では,素朴概念の違いにより,実践3では,中学校での学習の定着度によりグループ分けをして,できるだけ個人に応じた支援ができるようにした。このようなグループ学習は,個人に対して支援が行き届くので,児童生徒に好評であり,思考の活発化にっながった。実践5で行ったようにT・T方式とあわせての実践はより効果的である。助言や励ましなど,個人に対する継続的な支援が思考活動を活発にすることは実践3の結果からも明らかである。
<> 児童生徒の,思考のタイプ,思考の深さ,また,思考の前提となる学習意欲や基本的な知識・理解,技能には個人差がある。したがって,思考活動を活発にする方策はこれらの個人差に応じて講じられなければならない。○ゆとりと思考活動
実践4は,生物の酵素の学習で行った実験であるが,生徒自らが計画,準備し,予備実験,本実験を行い,結果を考察し,まとめを発表するという探究活動を,時間をかけてゆとりをもって行ったものである。時間はかかっても自分で解決したという体験は意義がある。このような探究活動を行うなかで科学的な考え方を身に付けていくことが期待できる。年間の指導計画の中にこのような探究活動をいくつか位置付けて実施したいものである。
科学的な思考は,問題が解決するまで続く時間のかかる活動である。児童生徒がゆとりをもって考え,問題解決ができるように,教師の方にも,結論を急がず,待つゆとりをもつことが望まれる。